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司法試験予備試験合格体験記 私の予備試験司法試験合格法

伊奈 達也

2007年 明治大学法学部法律学科卒業  
2010年 明治大学法科大学院(既習)卒業
2013年 司法試験予備試験合格     
2016年 司法試験合格(70期)    

 
 

第1 経歴等
 私は、上記のとおり、司法試験合格までにかなりの時間を費やしてしまいました。正直、あまり優秀な学生ではなかったと思います。しかし、多くの諸先輩方・友人に指導していただいた結果、自分なりの合格方法を確立し、最終的に、予備試験合格を経て、司法試験に合格することができました。
 これからお伝えしようとすることは、主に私の失敗経験に基づくものです。大変お恥ずかしい限りですが、これから予備試験、そして司法試験合格を目指す皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。
 特に、かつての私のように、一生懸命勉強しているはずなのになぜか成績が上がらない、合格しないと苦しんでいる皆様に、読んでいただければと思います。

  

第2 予備試験・司法試験短答式試験の勉強方法

1 法律科目の短答式試験
 ⑴ 苦手な分野をなくすこと

 私は、旧司法試験の短答式試験に合格した経験があったので、予備試験・司法試験の法律科目の短答式試験は得意でした。短答式試験が得意になったのは、旧司法試験の合格者の先輩方に短答式試験の勉強方法を教えていただいたからだと思います。その勉強方法とは、とてもオーソドックスですが、「過去問を解いて、自分の苦手な分野を把握して、苦手な分野を潰していく」というものです。自分の得意な分野も含め、肢別本や択一六法で片っ端からすべて勉強していくというのは、効率的ではなく、むしろ無駄が多い勉強方法ではないかと思います。私は、自分の得意な分野と苦手な分野を知るために過去問を解き、苦手な分野を発見したら、その苦手な分野を集中的に勉強していました。
 自分が苦手とする分野は、大きく分けて以下の2種類があると思います。つまり、①自分は苦手だが他の合格レベルにある受験生は当然に正解してくるものと、②自分も苦手で他の合格レベルにある受験生もほとんど正解しないものの2つです。ある過去問の問題がどちらの種類に属するかは、正答率を見れば確認できます。正答率は、予備校が出版している過去問集などに掲載されているのではないかと思います。一般に、正答率が70%以上の問題は①に属する問題といえ、正答率が40%以下のものは②に属する問題といえます。
 ①に属する問題を正解できないと合格は難しくなると思います。①に属する問題は、基本的な知識が理解できているかどうかを確認するための問題だと思いますので、確実に正解する必要があります。間違えたならばしっかりと復習しなければなりません。短答式試験を苦手とされている方は、まずは①に属する問題を正解できるように勉強していただければと思います。一方、②に属する問題ついては、ある意味正解しなくてもよい難解な問題といえますので、これを正解できるように細かい知識を勉強する必要はあまりないと思います。
 短答式試験でも論文式試験でも共通することですが、「合格レベルに達している受験生が当然に正解する」問題を解けるようになることが大切だと思います。短答式試験が得意で、さらに高得点を目指す人は②に属する問題を勉強してもよいと思いますが、個人的にはそんな余裕があるなら論文式試験の勉強をした方がいいと思います。①に属する問題すら正解できない方は、②に属する問題は無視して、まずは①に属する問題を正解できるように基本的な知識を勉強していただければと思います。

 
 ⑵ 論文式試験の勉強をしながら短答式試験の勉強をすること

 私は、法律科目の短答式試験の勉強は、論文式試験の勉強の合間にするようにしていました。論文式試験の勉強をしっかりとしていれば、各科目の重要分野の基本的な知識は自然と身についていきますので、別途その分野について短答式試験の勉強をする必要はなくなります。最終的に、私は、論文式試験の勉強を中心に行うため、短答式試験の勉強は大学に通う行き帰りの電車の中だけで行うようにしました。
 法律科目の短答式試験は、司法試験では7科目から3科目へと科目数が少なくなりましたが、予備試験ではまだ7科目もあるので、つい短答式試験の勉強ばかりしがちになる方もいるかと思います。しかし、短答式試験の勉強ばかりしていると、論文式試験の勉強(答案を書いたり、ゼミに参加するなど)がおろそかになってしまいます。いくら短答式試験ができるようになっても、論文式試験が解けるようにならなければ、予備試験・司法試験には合格できません。予備試験・司法試験は、ともに論文式試験がメインですから、短答式試験の勉強ばかりして、論文式試験の勉強がおろそかにならないように注意する必要があります。

 
2 一般教養科目の短答式試験

 私は、予備試験の一般教養科目の短答式試験については、全く勉強しませんでした。なぜならば、一般教養科目であまり点が取れなくても、法律科目でしっかりと点数を取れば、十分に予備試験の短答式試験は突破できるからです。また、私立文系の私が、今からどんなに勉強しても、一般教養科目の点数で東大・京大をはじめとする難関国立大学の在学生・卒業生に勝てるわけがないと思ったからです。その代わり、私は、法律科目では難関国立大学の在学生・卒業生に負けないように、しっかりと準備していこうと考えていました。
 一般教養科目の短答式試験は、40問程度の問題の中から、20問を選んで解答することになっています。本番では、私は、まず全ての問題に軽く目を通して、①その場で考えれば解ける問題と、②その場で考えても解けない問題を選別しました。そして、私は、②は全く相手にせずに、①だけをじっくりと考えて解答しました。私は、受験時代、現代文・古文・漢文や、世界史が得意でしたので、それらに関係する人文科学、社会科学の問題ばかりを選んで解答しました。自然科学のうち、物理、化学は全く歯が立たないので、完全に無視しました。一方で、自然科学でも、距離=速さ×時間という単純な公式を使えば解ける数学の問題などもありましたので、そのような問題にはその場で考えて解答するようにしていました。英語は、かなり難しかったので、何年も英語を勉強していなかった私は完全に無視しました。それでも、一般教養科目で6割ほど正解することができたと思います。

 

第3 予備試験・司法試験論文式試験の勉強方法
 私は、司法試験に三振してから予備試験に合格し、再度司法試験にチャレンジするまでの間に、様々な合格者に教えを請い、以下のように考え方、勉強の仕方を変えました。以下の考え方、勉強の仕方は、予備試験・司法試験に共通して妥当するものだと思います。

 
1 発想の転換をすること

 私は、「合格する」ために何が必要かではなく、「落ちない」ために何が必要かを考えることにしました。なぜならば、「合格する」ためにすべきことは人それぞれ異なるが、「落ちない」ためにすべきことは、ある程度の一般性、普遍性があると思ったからです。

 
2 「落ちない」ための逆算的思考

 私は、まず、「落ちない」ためには、試験当日に何をすべきなのか考えました。次に、試験当日にすべきことを明確にした上で、普段の勉強では、試験当日にすべきことの反復練習を行うことにしました。基礎的な知識の習得・復習は、この試験当日にすべきことの反復練習の過程で行っていました。
 試験当日にすべきことが分からなければ、普段の勉強が的外れな努力に終わってしまうからです。また、試験当日にすべきことが分かっていても、普段の勉強で試験当日にすべきことの反復練習をしておかなければ、分かっているのに実践できないという結果に終わってしまうからです。

 
3 試験当日にすべきこと
 ⑴ 問題全体の概観

 はじめに、問題文の量、設問の数、事案の概略などを把握します。
 おおまかに事案の内容をつかむことを目的とし、さらっと問題文全体を概観します。

 ⑵ 時間と論述量の配分決定

ア 各設問の配点割合を確認して、各設問を解くために必要な時間を配分します。その際、自分の筆力(試験時間内に答案用紙何枚分論述できるかということ)に応じて、論述量の配分も行います。
 例えば、司法試験では試験時間が1科目2時間ですが、配点割合が2:5:3であれば、24分:60分:36分といった感じで2時間の時間配分を行います。次に、自分の筆力が答案用紙6枚程度の場合は、各設問の配点割合に合わせ、6枚を1枚:3.5枚:1.5枚というように振り分けます。
 予備試験では試験時間が1科目1時間10分ですが、各設問の配点割合が示されていないことも多いと思います。その場合は、まず、問題文を読んで論じるべき論点を複数ピックアップします。その上で、問題文中に、ピックアップした論点のうちどの論点に使えそうな事実が多く記載されているか、といった観点から、厚く論じるべき論点をピックアップします。その上で、時間と論述量の配分を行います。

イ ここで決めた時間と論述量の配分は、絶対に変更しません。決めたとおりの時間で、決めたとおりの論述量を書きます。こうすることで、途中答案が防げるし、全体的に満遍なく解答することができるため、高得点が狙えるからです。第1問を厚く書きすぎて、残りの設問があまり書けなかった、そもそも書けなかったというようなことでは、点数をごっそりと落としてしまいます。
 もっとも、決めた通りの時間・論述量を守ることにはかなりの自制心が要求されます。私は、これが試験当日にできるように、過去問を使用して、普段の勉強で反復練習するようにしていました。特に、知っている論点については、自分が今まで一生懸命勉強してきたわけですから、どうしてもたくさん書きたいという欲求が出てきてしまいます。確かに、その知っている論点が厚く論じるべき論点である場合には、たくさん書いてよいと思います。しかし、単なる付随的な論点にすぎない場合には、その欲求は抑えて、淡々と書く必要があります。

 
 ⑶ 事実関係と論点の正確な把握

ア 問題文を読む際には、関係図(余裕があれば、時系列も)を作りながら、事実関係を正確に分析し、把握します。
 ここでの分析の正確さが、合否を左右すると思います。試験委員は何を論じて欲しいのか、じっくりと、正確に分析して、把握します。

イ 何を論じて欲しいかについては、必ず誘導があると思います。司法試験の行政法や民訴には明確な誘導があるし、その他の科目にも事実関係による誘導があることが多いです。「なんかこの要件の当てはめに使えそうな事情が多いな。」とか、「なんかこの事実関係おかしいな。」と思う部分があれば、論じて欲しいことを誘導しているといえる場合が多いと思います。

ウ 事実関係の分析は、試験委員が論じて欲しいこと(=論点)を見つけるために行うものだと思います。自分が書きたいことを見つけるために行うものではありません。ある先輩合格者から聞いたことですが、「試験委員が論じて欲しいことについて書かないと、いくら内容的に正しいことが書かれていても、一切点が入らない」そうです。

 
 ⑷ 答案構成

ア 答案構成などしなくてよいという先輩合格者もいました。しかし、私は、「落ちない」ことを目指すなら、答案構成はすべきだと思います。答案構成をするということは、「答案に書くべきことは何か。」という最終目的、到達点を確認することであり、いわば建物の設計図を作成することと同じだと思うからです。
 書くべき内容だけでなく、形式も答案構成の段階で整理します。段落記号や題名がしっかりと整理されている答案は、よく考えられているという推定が働くと、数多くの実務家の先生方から指導されました。
 予備試験・司法試験は、誰もが書くであろうと考えられる普通の論点を、きちんと書くことができれば合格すると思います。答案構成は、その誰もが書くであろう普通の論点を選別するために行うべきです。

イ 答案構成は、自分の頭の中を整理するために行うものですから、自分にあった方法で行えばよいと思います。
 ただし、以下の2点に注意します。

① 自分が事前に何を考えたのか、何を書こうとしたのかわからない答案構成はしないようにします。題名や論点名、拾うべき事実のキーワードを整理して、自分の考えたことが明確に分かるように答案構成をする必要があります。

② 正確にやろうとして、答案構成に時間をかけすぎないようにします。答案構成は、あくまで答案を書くために行うものでしかないのですから、自分の頭の中、書くべきことを整理するのに必要かつ十分な限度で行うべきだと思います。

ウ ㋐すべての設問に答案構成をしてから一気にすべての設問の答案を書くか、㋑各設問ごとに答案構成をして各設問ごとに答案を書くか、どちらが良いかは一概には言えないと思います。
 例えば、憲法や刑法については、全体の論理的整合性が重視されるから、㋐の方法によるべきだと思います。しかし、行政法や民法、商法、刑事訴訟法など、設問ごとの関連性がなく独立している科目については、㋑の方法による方がいいと思います。
 なぜならば、㋑の方法による場合、各設問ごとに答案構成をしてすぐに書き始めるので、思考経済上無駄がないからです。㋐の方法による場合、各設問ごとに、いちいち自分が考えたことを思い出さなければならなくなります。また、各設問を書き終えてから次の設問に進むので、「設問1についてはもう書き終わっている。」という安心感が生じ、リラックスできるというメリットがあるからです。

 
 ⑸ コンパクトな論述

ア 1時間10分(予備試験の場合)、2時間(司法試験の場合)という極めて短い時間の中では、余計なことを書いている暇は全くありません。要件事実論的な発想で、合格のために必要最小限度のことを書きます。余事記載を徹底的にそぎ落とします。
 そのためには、普段から、過去問を解いたり、答練を受ける際に、「徹底的に余事記載をなくし、必要最小限度の記述だけでコンパクトにまとめ上げる、絶対に余計なことは書かない!」と強く意識して、練習・実践する必要があります。

イ 私は、多くの先輩合格者の方々に質問しましたが、そのほとんどが、次のように述べていました。すなわち、「司法試験に合格するためには、答案用紙4、5枚程度かければ十分であり、上位合格、超上位合格を狙わない限り、6枚以上書く必要はない。というよりも、コンパクトな論述を心掛けるのであれば、答案が6枚以上になることはない。大切なことは、『何枚書くか。』よりも『何を書くか。』である。」と。私も、全く同じ意見です。私のある友人は、全科目5枚半書いて司法試験に200番以内で合格していました。また、私の別の友人は、全科目8枚フルに書いて司法試験に700番程度で合格していました。やはり、答案の枚数よりも中身が大事だと思います。

ウ 問題提起、規範定立のための論証も、必要最小限度のことを短く書きます。おそらく、この2点に配点はあまりないからです。規範は、予備試験も司法試験も実務家登用試験なのですから、誰もが知っているような判例・通説で書いた方がいいと思います。難しい少数説の規範を長々と論じるより、判例・通説の規範を短く書いて、その判例・通説の規範への当てはめをしっかりと行うべきです。
 もっとも、ある先輩合格者は、問題提起についてはしっかりと論じるべきだと述べていました。有名な論点についてはあっさりと、初めて見るような論点についてはしっかりと問題提起を行うというように、臨機応変に対応していくしかないと思います。

エ 当てはめる際には、きちんと自分なりの言葉で評価する必要があります。評価がなければ当てはめにならないからです。
 私は、当てはめに難しい言葉を使う必要は全くないと思います。誰もが知っているような言葉で、分かりやすく自分の考えを表現すればよいと思います。噛み砕いた平易な表現の方が、試験委員に自分がきちんと理解していることをアピールできると思います。
 また、当てはめに必要な事実を抜き出すときには、可能な限り事実を要約するべきだと思います。長々と問題文中の事実を丸写しすると、採点者に何も考えていないと思われる危険があります。余事記載をなくして徹底的にコンパクトに論じるという観点からは、可能な限り事実関係は要約すべきだと思います。ただし、独断的な要約はしないように注意してください。私も、ポイントを押さえた的確な要約ができるように、普段から訓練していました。

 
 ⑹ メリハリのある論述 

ア 配点割合に従って費やす時間と論述量を決めているので、「設問ごとに書く」という観点からは、すでにメリハリのある論述ができるようになっているはずです。配点割合が高い設問・論点について、多くの時間を費やして、厚く論じます。

イ 次に、答案構成の段階で、しっかり論じるべきところと、簡単に触れる程度でよいところの選別を行っているはずなので、「各設問の中身」という観点からは、その答案構成通りに書けばすでにメリハリのある論述ができるようになっているはずです。
 問題となっている要件や、当てはめにつかえそうな事実がたくさんある要件については厚く論じる必要があります。しかし、明らかに充足することが分かっている要件については、一言だけ触れればよいと思います。
 要は、しっかりと論じるべきところを厚く論じ、それ以外のところは簡単に触れる程度でよいということです。司法研修所でも、教官から同じように指導されました。

 
 ⑺ 分かりやすい論述

ア 大切なのは、難しいことを難しく書くことではなく、日常的な言葉と、誰もが知っている常識(経験則)を用いて、分かりやすい論述を行うことだと思います。

イ 基本書に書かれているような抽象的な用語をただ並べただけで逃げないようにします。なぜそのように考えたのか、具体的に、一歩踏み込んで書きます。つまり、抽象的な用語の具体的の中身を読み手に提示するということです。「社会的に相当である。」などと書いても全然点は入らないと思います。

ウ どう読んでも一義的にしか読めない、一読了解の論述を目指します。主語・述語を明確に書き分け、5W1H(誰が、いつ、どこで、誰or何に対し、何をして、どうなったか)も意識しながら、何が書いてあるのか読み手が一読してわかる文章を目指してください。自分が読んでいて、「これは読み易いな。」と思う基本書、参考書の文章を真似すればよいと思います。
 また、どう読んでも一義的にしか読めない、一読了解の論述にするためには、一つの文章を極力短く書くようにしてください。さらに、「しかし」、「そこで」、「また」といった接続詞も、必ず文頭に明記するようにしてください。

エ 多くの実務家法曹の方々、司法研修所の教官の方々から、「難しいことをいかに分かりやすく伝えるか、これが法律家の腕のみせどころだ。」と指導されました。法律を知らない一般の方々、さらには中学生や高校生に読んでもらうくらいの意識で書くといいと思います。

 
 ⑻ 法的三段論法による論述

 以上、論述の仕方について色々述べてきましたが、それらは、法的三段論法という枠組みの中で行う必要があります。
 かつての私もそうでしたが、不合格者の多くが、法的三段論法に従って論述できていないのではないかと思います。法的三段論法に従って書かなければ、それは法律文書ではなく、ただの小論文、感想文になってしまいます。

 
4 普段の勉強における反復練習

 以上の試験当日にすべきことを、普段の勉強において反復練習します。その際には、以下の諸点に注意します。

 
 ⑴ 試験当日の感覚を身に付けること

 試験当日と同じような環境(時間、場所、周囲の他の受験生の存在など)で書く訓練をする必要があります。ダラダラと2時間以上も書いたり、リラックスした環境で解いても、本番に向けて何の訓練にもならないと思います。
 試験当日と同様の集中力で過去問を解く訓練をすることは、最初はかなりつらいと思います。しかし、これを普段から実践しなければ合格は難しいのではないかと思います。私も、かつては何時間もかけてダラダラと過去問を解いていました。しかし、そうしている間は、司法試験に合格しませんでした。
 個人的には、マラソンと予備試験・司法試験は似ているところがあると思います。何の練習もしていない人が、いきなり42.195キロ走れと言われても走れないように、いきなり1時間10分、2時間で答案を書けと言われても書けません。普段から、少しずつでもいいので、試験当日の感覚を身に付けるよう訓練する必要があります。

 
 ⑵ 問題を解くこと

 問題形式になれるために、なるべく現行の予備試験・司法試験の過去問を解く必要があると思います。個人的には、実際に答案を書くのは直近3年分位で、残りの過去問は問題分析と答案構成の訓練に使う程度でよいと思います。全部の過去問を書いている時間的余裕はないからです。
 また、市販の問題集を使うなら、あまり難しいものはやらない方がいいと思います。ロープラクティス程度の問題集を、しっかりと、何度も何度も繰り返し解いていれば、十分に合格すると思います。
 そして、基本書や予備校のテキストを何度も通読するくらいなら、問題を解いた方がいいと思います。問題を解いて分からない箇所が出てきたときに、はじめて基本書などを読み返せばいいと思います。基本書も、基本的なことがしっかりと書いてある、なるべく薄いものを読むべきだと思います。

 ⑶ コンパクトな論証を準備しておくこと

 前記のとおり、試験中は余計なことを書いている暇は全くありません。それゆえ、余事記載を徹底的に排除するためには、普段から、コンパクトな論証を準備しておく必要があります。
 予備校の論証集や、市販の論証集は、ちょっと長すぎて使えないと思います。これらの論証集を使うなら、この論証における本質的なポイントは何かを考えながら、徹底的に不必要な部分を削って使ってください。

 ⑷ 悪いクセを直すこと

 読みにくい答案になってしまっている原因である自分の悪いクセは、なかなか自分では気づかないものです。積極的に他人(できれば直近の合格者)に自分の答案を読んでもらって、悪いクセを指摘してもらい、指摘してもらったクセはしっかりと修正してください。自分の間違いを指摘してくれる存在は、本当に貴重ですから、どんな意見にも一旦は謙虚に耳を傾けてください。
 ただし、その合格者の意見に、おかしいところや、納得できないところがあったら、遠慮せずに色々質問してみてください。自分の人生がかかっているのだから、恥ずかしがったり、遠慮したりしないで、どんどん質問した方がいいと思います。

 
5 予備試験の一般教養科目の論文式試験

 私は、予備試験の一般教養科目の論文式試験の書き方についても、短答式試験と同じように、特に準備はしませんでした。法律を学びながら身に付けた事案把握能力、分析力、文章力などがあれば、十分に太刀打ちできると考えたからです。事実、私は、一般教養科目の論文式試験の成績はC評価でした。一般教養科目の論文式試験では、CからD程度の評価を得られれば十分だと思います。もちろん、それより上の評価を得られればそれに越したことはありませんが、FやGなどの一番低い方の評価を取らなければ御の字だと思います。
 事案をしっかりと分析し、問題点を見つけ、それについて自分なりの考えを分かりやすく論じるということは、法律科目の論文式試験の勉強で十分に訓練しているわけですから、一般教養科目の論文式試験のために特別な対策をする必要はないと思います。一般教養科目の論文式試験の勉強をする時間があるのなら、その時間は法律科目の論文式試験の勉強をする時間に回した方がいいと思います。

 

第4 その他合格に役立つと考えている方法

1 勉強に最適な脳の状態を保ち続けること
 ⑴ 夜は早く寝て脳機能の回復に努めること

 受験生活をしていると、睡眠時間を削って夜遅くまで勉強したりしてしまう方もいると思います。しかし、それは本当に辞めた方がいいです。睡眠時間を削って勉強してもあまり効果がないこと、脳に悪影響を及ぼすことは科学的に実証されているようです。
 スポーツ選手が常に身体のコンディションを最高に保つように気を付けているのと同様に、司法試験受験生も常に脳のコンディションを最高に保つよう気を付ける必要があります。スポーツマンが怪我や筋肉痛だらけの身体で良いパフォーマンスができないように、司法試験受験生も眠気でぼやけた頭では効率の良い勉強はできません。
 そのためには、夜は早く寝て脳機能を回復させるように努めた方がいいです。同じ6時間の睡眠時間でも、夜12時に寝て朝6時に起きるのと、深夜2時に寝て朝8時に起きるのとでは、前者の方が翌日の脳のコンディションがいいと思います。夜は最低でも12時前に寝て、翌朝早く起きて勉強することをお勧めします。私も、平日に仕事をしながら勉強していたので、夜は11時に寝て朝5時に起きて2時間勉強し、家に7時に帰ってきたら8時から11時まで3時間勉強して寝るという生活を続けていましたが、朝は本当に脳がクリアになっていて、効率の良い勉強ができていたと思います。

 
 ⑵ 身体を鍛えて脳機能と精神の健全化に努めること

 ジョギングなどの有酸素運動をしてから勉強をするのと、有酸素運動をせずに勉強するのでは、勉強の効率が全く違います。私も、なかなか集中して勉強ができないことに悩んでいたときに、ある本を読んでジョギングをしてから勉強をしてみたのですが、集中力が高まり、非常に効率の良い勉強ができました。有酸素運動をすることで脳にも大量の血液が巡るからだと思います。
 また、筋力トレーニングもお勧めです。身体を鍛えると、精神的にもタフになります。司法試験受験生をしていると、自分は合格できるのか、そもそも法曹に向いているのかなど、色々悩むことも多いと思います。私も、受験生活が長かったので、同じように悩んでいました。しかし、身体を鍛え始めてからは、「悩んでも仕方ないから勉強しよう。」という前向きな気持ちで勉強を続けることができるようになりました。

 
 ⑶ 勉強に最適な脳の状態を保ち続ける方法を解説している書籍を読むこと

 以上の⑴、⑵について解説している本は、最近は数多く出版されています。がむしゃらに勉強するだけでなく、たまにはこういった書籍を読んで、自分の脳機能や精神状態を最適に保ちつつ勉強を続けるにはどうしたらいいか、自分なりに研究してみるのもよいと思います。

 
2 他者・社会との関わりを持ち続けること
 ⑴ 一緒に勉強してくれる受験仲間を見つけること

 予備試験・司法試験の勉強は、基本的には自分一人で行うものです。しかし、いつも一人で勉強していると、自分が間違った勉強方法を実践していたり、法律概念について誤った理解をしていても、その間違いや誤りに気付くことができません。そんなとき、一緒に勉強してくれる受験仲間がいれば、お互いに勉強方法について議論したり、法律概念について質問し合うことで、そのような間違いや誤りに気付くことができるようになります。同じ志を持つ同期が集まってくるゼミに所属したり、学外の受験指導のゼミに所属するなどして、是非一緒に勉強してくれる受験仲間を見つけてください。
 また、予備試験・司法試験の勉強を一人でしていると、孤独感や不安感に囚われたりして、気が滅入ることもあると思います。そんなときは、受験仲間と遊びに行ったり、議論したりすれば、そのような孤独感や不安感は解消されると思います。そういった観点からも、是非一緒に勉強してくれる受験仲間を見つけてください。
 そして、このように苦楽を共にした受験仲間は、きっと一生の友人になると思います。

 
 ⑵ 受験仲間以外の友人との付き合いも大切にすること

 予備試験・司法試験の受験勉強ばかりしていると、自然と受験仲間と過ごす時間が増えていくと思います。もちろん、それはそれで良いことなのですが、ときには、受験仲間以外の友人と遊ぶのも大事だと思います。良い気分転換になりますし、受験仲間以外の友人がいる場所と比較して、自分たちのいる受験界がいかに狭い場所かということが分かります。また、受験仲間以外の友人から掛けられた思わぬ言葉が、自分を勇気づけ、奮い立たせてくれることがあります。

 
 ⑶ ゼミ・サークル活動やアルバイトなども可能な限り積極的に行うこと

 予備試験・司法試験の勉強をしていると、勉強しなければならないことが多いので、なかなか法律に関係のないゼミやサークルに所属したり、アルバイトをすることができないと思います。しかし、法律以外の世界に飛び込むと、普段は経験できないことが経験できたり、新しいことを知ることができたりします。そのような新たな経験や知識が、自分の論述に説得力を持たせてくれることがあります。テレビや新聞で見聞きしただけの抽象的な知識に基づく論述よりも、自分が実際に体験した具体的な経験に基づく論述の方が、内容が充実した説得力のある論述になると思います。
 また、特にアルバイトは、社会常識を身に付けることができたり、自分とは違う目標や夢を持って努力する人と出会えたりするなど、自分の見識を豊かにし、物事の考え方の幅を広げてくれます。様々な社会常識を身に付け、自分とは違う考え方を持った人々と交流を深めていくことは、法曹にとってとても大切なことではないかと思います。もちろん、勉強で時間がないと思いますが、週に1~2日、数時間でもいいので、アルバイトをしてみるのもいいと思います。

 
 ⑷ 信頼できる指導者や合格者の話を積極的に聞くこと

 予備試験・司法試験の勉強は、勉強しなければならないことが膨大で、どのように勉強すればいいのか分からなくなって途方に暮れることもあると思います。また、答案構成の仕方が分からない、論文の書き方が分からないなど、悩むことはたくさんあると思います。そんなときは、大学のゼミの先生や、学外の受験指導のゼミの先生など、信頼できる指導者の方々に積極的に悩みを相談してみてください。一人だけでなく、複数の指導者に相談して、色々な助言を聞いて比較することも大事です。ある指導者の方の助言が、必ずしも自分にも適しているとは限りません。複数の助言を比較して、自分に合った解決方法を見つけてください。私も、数多くの指導者の方々に相談させていただきました。そして、いただいた助言をもとに、自分なりに考え、自分に合った勉強方法を確立することができました。私は、その方々のご指導のおかげで合格したといっても過言ではありません。
 また、特に論文の書き方については、直近の合格者に相談するのが一番良いと思います。最近の受験傾向を踏まえた助言を聞くことができるからです。また、予備試験の口述試験についても、実際に試験を受けて合格した直近の合格者に質問するのが一番良いと思います。

 
3 法律実務基礎科目の勉強に可能な限り早く着手すること

 これは、直接的には予備試験を受験する方へのアドバイスですが、司法試験を受験する方にも間接的にはアドバイスになると思います。予備試験では7科目、司法試験ではこれに選択科目を加えた8科目も法律を勉強しなければならないので、法律実務基礎科目の勉強をしている余裕などないかもしれません。しかし、法律実務基礎科目の勉強が、他の科目の勉強に良い影響をもたらすことがあります。
 民事実務では、要件事実論や民事事実認定に加え、通常の民事訴訟の手続の流れを学ぶことになります。要件事実の勉強は、民法をより良く理解するのに役立ちますし、処分権主義や弁論主義、証明責任といった、民事訴訟法の基本書を読んでいるだけではよく理解できない概念を理解するのに役立ちます。また、民事事実認定の基礎を学ぶと、証拠法が理解できるようになります。特に、主要事実と間接事実・補助事実の違い、直接証拠と間接証拠の違い、二段の推定など、やはり民事訴訟法の基本書を読んでいるだけではよく理解できない概念が理解できるようになります。
 また、刑事実務でも同様です。刑事実務では、勾留・保釈の手続や公判前整理手続に加え、公判手続、事実認定などを学ぶことになります。一般的な公判前整理手続や公判手続の流れを知れば、刑事訴訟法の基本書をただ読んでいてもよく分からない手続上の問題点が理解できるようになります。また、刑事事実認定の基礎を学ぶと、証拠法、特に伝聞法則が本当に良く理解できるようになります。
 ただし、これから予備試験・司法試験を受験しようとしている方々は、本当に基礎的な部分だけを学ぶだけで十分だと思います。例えば、要件事実論であれば、「『新問題研究要件事実』(法曹会、2011年)」を読むだけで十分だと思います。また、事実認定であれば、民事では「『事例で考える民事事実認定(法曹会、2014年』)、刑事では「石井一正『刑事事実認定入門』(判例タイムズ社、第3版、2015年)を読むことをお勧めします。
 そして、民事実務、刑事実務については、「渡辺弘ほか『民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎』(有斐閣、2014年)」を読むことを強くお勧めします。ロースクールで教鞭をとった裁判官の方々や、司法研修所の教官をされた裁判官の方々が、法学教室で連載されていた記事をまとめて単行本化されたものです。民事実務、刑事実務の基礎について分かりやすく執筆されており、頁数も250頁弱しかないので、ある程度勉強が進んでいる方であれば簡単に読めると思います。これ一冊で、予備試験の法律実務基礎科目を受験するに当たって必要な知識が身に付くと思います。

  

第5 最後に

 以上、合格に必要と思われることを、私の経験に基づいて書いてまいりました。しかし、以上のことは、必ずしもこれを読まれた方にも必要なこととは限りません。他の優秀な合格者の方々の合格体験記を読まれたり、ご意見を伺って、自分なりの勉強方法、試験対策を確立していっていただければと思います。
 これを読まれた方が、予備試験、そして司法試験に合格されることを心よりお祈りしています。

司法試験合格体験記・予備試験合格体験記