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合格体験記 私の司法試験合格法

飯田 貴大

 

筆者略歴等

平成3年生  千葉県山武市出身
平成19年山武市立成東中学校卒業
平成22年千葉県立長生高等学校(理数科)卒業
平成26年明治大学法学部法律学科卒業(奥脇直也国際法ゼミ)
平成28年明治大学法科大学院(既修)修了
平成29年司法試験合格 第71期司法修習生
選択科目:国際公法

 

第1 序文

 この合格体験記は,3つのパートから構成されます。まずメインである司法試験に向けた勉強法を述べるパート,次に筆者が使用した書籍等の教材の紹介パート,受験時代の簡単なアドバイス(Tips)を述べるパートです。
 なお,ここでは記載しなかった内容について,明治大学法制研究所に寄せた文章がありますので,併せて参照してください。
http://www.meiji.ac.jp/netsc/legal_lab/suc_msg/6t5h7p00000q1if9.html
 

第2 司法試験の勉強法

1,短答式試験について
⑴概要
 私が司法試験を受けた時には,短答式試験で商法,刑事訴訟法,民事訴訟法,行政法は既に無く,憲民刑の3科目でした。配点として,民法が75点満点で,憲法と刑法は各50点満点です(それに応じて,問題数,試験時間も違います。)。合計で175点満点となります。
 
 短答式試験では,条文や判例ベースの知識が非常に重要です。記憶勝負のところも否定できないので,問題を解く数をこなすと有利になります。
 
⑵私の実践例
 私は,学部時代に行政書士や宅建士(当時は宅地建物取引主任者という名称でした)の資格を取得するなど,比較的短答形式の試験問題には慣れていました。そういうわけで,もともと短答式の点数について,最低限のものは取れるという状況であったように思います。今から思えば,短答の勘が働くというところに頼っていた部分もあります(2回目の試験で合格しましたが,この時は短答の点数は良くなかったです。)。
 それでも,短答式の準備は継続的にしていかなければならないと考えてはいました。私の場合,明治大学へは実家から通っていたので,電車の時間がかなり長かったです。トータルで片道2時間~2時間半ぐらいかかっていました。この間,私はiPadを用いて,TKCのインターネット上の短答式問題集を解いていました。この方法の便利なところは,書籍の問題集と違ってかさばらない点と,その場で気になった判例を読むことができるので,文献へのアクセスがしやすい点が挙げられます。やはり,世は文明の科学戦ですので,積極的に文明の利器を活用したいものです。
 模試についていえば,短答模試は受けることが多かったです。受験料もリーズナブルですし,明治大学法科大学院から補助が出て無料で受けられたりしました(聞くところによれば,今は予備校の論文式の模試にも補助が出るとか。うらやましい限りです。)。
 
⑶考察
 短答式が苦手な人がいます。そういう人は過去問を中心に徹底的にやりこむというのが一つの手だと思います。残念ながら明治大学法科大学院の短答式試験落第率は高いです。確かに短答式試験でアドバンテージになるような点数を取ることは難しいかもしれませんが,足切りされてしまうというのは甚だ遺憾です。短答式試験落第の大きなデメリットとして論文の採点がなされず,成績が不明となることが挙げられます。1回目の受験生も少なくとも短答は受かるようにして,自分の答案を客観視できる態勢を作れればと思います。もちろん,1発合格に越したことはありません。
 試験を終えての感想として,民法は時間との闘いという面があるかと思います。反対に憲法や刑法は時間にゆとりがあるように思います。科目ごとにこうした毛色が違うので,過去問を解くことで経験を積んでいってほしいと思います。
 
2,論文式試験について
⑴概要
 論文式試験では,選択科目,公法系(憲法,行政法),民事系(民法,商法,民事訴訟法),刑事系(刑法,刑事訴訟法)の試験があり,各100点満点で合計800点満点となります。この素点に一定の計算式を経て,短答式と併せることで総合得点が算出されます。
 
⑵選択科目
 選択科目についていえば,そもそもどの科目を選択するかで大きく迷うところです。しかし,私の場合,国際公法一択でした。その理由は,学部時代から国際法ゼミにいて,もともと勉強していたということ,そして国際法の勉強は苦にならなかったということが理由です。全国的にも国際法受験者は最も少ないということで,選択に躊躇するところもあるかと思います。
 私の場合には,様々な本を読むとともに,師匠の奥脇直也教授から細やかなご指導を賜りましたので好成績をとることができました。問題演習の内容としては,司法試験の過去問が中心で,その他は法学教室に掲載されたものを解いていました。やはり論文式試験は,書くことが重要です。そして,書いたものを読んでもらうということが大切です。法律的な内容はともかく,文章として読みやすいかどうかという点についても確認できた方がいいです。
 選択科目は,司法試験の最初の試験科目なので,ここでしくじると後に響くこともあろうかと思います。選択科目は,試験時間が3時間あります。科目によって状況は違うようですが,国際公法の場合,時間にだいぶゆとりがありました。
 
⑶公法系科目
 公法系科目については,それぞれ書き方が違います。憲法については,書き方の流れというのがある程度確立されているのかと思います。ですので,私のように憲法の問題に苦手意識を持っている受験生であっても致命的なミスを避けながら,何とかやり過ごすように得点をすることは可能であること思います。
 これまでの問題では,原告ないし被告の主張を述べるパートと,自己の見解を述べるパートに大別されていますが,後者の記述を薄くする答案が多いようです。時間の関係もあるかとは思いますが,文量のバランスを考えて答案構成をするということが大切です。
 私の場合,2時間の試験時間でおおむね答案用紙6枚を書ききって,7枚目に入るかどうかぐらいがやっとであったので,3枚・3枚に分けるということを意識して二つのパートの起案をしていました。
 行政法の問題は,時間についてより深刻です。問題文が長いからです。私は残念ながら実質的に途中答案になってしまいました。時間のマネージメントは重要であると改めて実感した次第です。
 一方で,行政法は,民事訴訟法とも共通するのですが,愚直に誘導に乗っていけば,なんとかなるという問題です。つまり,問題文の中に弁護士や司法修習生の会話などというものが掲載されており,この中でどういう問題意識をもって検討するべきか,端的に何を検討すべきかが書かれているのです。これに乗らない手はありません。ですので,論点がさっぱり分からないということにはならないのではないかと考えます。逆に,こうした誘導を外れて書いてしまうと,ほとんど点数にはならないと考えられます。
 
⑷民事系科目
 私の場合,民事系科目は比較的高得点でした。自分の中ではそれほど得意意識があるわけではないのですが,改めて振り返ってみると,慎重に問題の検討をしていたように思います。
 それは,条文が出発点となることを意識することです。とりわけ民法は,抽象的な記述になっているので,正直,内容がよく分かりません。そこで,他の条文との整合性だとか,制度趣旨というものから解釈がなされます。裁判所が解釈したものが裁判例となるわけです。司法試験では,判例そのものの問題は論文式では出題がなされないと思います。この場合,条文に立ち返って,難解な条文を問題解決に向けて解釈していくという作業が慎重な検討という意味です。
 私の場合,さほど得意意識がなかった分,かえって上記のような対応を自然とすることになったのだと思います。
 商法については,実際の内容は会社法です(予備試験の方では,手形小切手法なども出たそうですが,本試験の方では未だ出題がありません。)。私は社会人経験があるわけではないので,会社の実務的な感覚というのがさっぱり分かりませんでした。それでも,定評のある書籍を読むことで,少なくとも司法試験頻出の論点を押さえることはできたようです。
 試験当日は,思いもしなかった部分が出題されてしまいました。この時も,やはり条文から出発して,条文どおりあるいは判例どおりに考えようとするとどうしても不都合が出るので,うまいこと解釈で決着できないかと起案してみました。不安しかなかったのですが,ふたを開けてみればなんとかなっていました。
 民事訴訟法については,前述のとおり愚直に問題文の誘導に乗っていくことが重要です。
 
⑸刑事系科目
 刑事系科目は,受験者の多くが文量をたくさん書くと聞いているので,頭ではわかっていても,時間の都合上書くことができない論点がどうしても出てきてしまうので,書き負けることが多い印象でした。刑事系科目は,論文式試験最終日(司法試験3日目)なので,私の場合,実質的な勝敗は2日目の民事系の善し悪しにかかっていたということができます。
 刑法は,基本書の知識,短答の知識をしっかりと身に着けたうえで,論文式試験の対応にかかることをおすすめします。極めて厳格な体系が刑法の世界にはあるので,こうした基本抜きにアウトプットにいくのは早い気がします。その他の科目は,とにかくアウトプットを意識して勉強するというイメージでいいと思います。
 刑事訴訟法は,判例の学習が中心となります。法科大学院での授業や演習で自分にとっては十分であったと思います。刑事訴訟法については,さほど深入りして勉強してはいませんでした。
 
3,形式的なこと
⑴反省点
 私は,論文式試験で1回試験に落第しています。その時の反省を踏まえていえば,知識に不足していることがあっただけでなく,形式的な面でだいぶ損をしていました。私の場合は,明治大学法務研究所という修了生向けのサポートを利用する中で起案の添削を受けていましたので,形式面を是正していくことができました。以下に,どういう形式的な損をしていたかを述べます。

⑵法的三段論法の徹底

 受験生にとって当たり前ともいえますが,いざ起案を書き続けていくと,理由付けが不備の箇所があったり,理由付けが飛躍してしまったりということがあります。こうした指摘を受けることで,ミスを減らしていくことができました。
 また,憲法など,問題独自の書き方の流れというのがある科目があります。
 
⑶ナンバリングを意識する
 ナンバリングをつけること自体は,受験生の多くが実践していることと思います。ナンバリングをつける際に,この段落でどういう意味があるのかを意識しながら書いていくということが大事です。合格再現答案を読むときも段落ごとにマーカーを引いたり,どういう意味かを分析したりしていました。合格再現答案を漫然と読むのではなく,精読して分析することが必要です。可能であれば,同じ問題について,複数の答案を読み比べながら分析すると,合格に必要なレベルが自ずとわかってくると思います。この学習法で私の場合は相当良くなったと思います。
 
⑷一文を短くする
 一文が長文であると,読み手はわかりづらいです。そこで,読みやすい文章を心がけることが重要です。重要なところでは,接続詞をしっかり使います。法学専門用語以外で過度に難解な言葉は避けた方が無難です。
 国際法限定ですが,専門用語にかっこ書きで英語や羅語を付記するといいでしょう。
 例:合意は拘束する(pacta sunt servanda)との国際慣習法がある。
 
⑸文字の読みやすさ
 これは,難しい問題です。なぜなら,論文試験の多くは時間との戦いであって,悠長に文字を書いている時間はないからです。そこで,文字が崩れるなどすることが非常に多くなります。司法試験委員からは,毎年のように採点実感において,文字が読みにくいことの指摘があります。ただし,人生がかかった試験ですので,一文字一文字しっかりと判読しているようです。ことさら,読みにくくしないようにという程度でいいのではないでしょうか。
 

第3 主に使用した書籍

 ここでは,筆者が使用していた書籍等の教材のうち,特に使用頻度が高かったもののみを記します。なお,演習について,どの科目も司法試験の過去問と受験新報の問題は解いていました。それ以外の書籍を記します。
 
1,選択科目(国際法)
入門書:奥脇直也・小寺彰「国際法キーワード」(有斐閣双書)
基本書:杉原高嶺「現代国際法講義」(5版,有斐閣),判例集については,判例百選の初版及び2版
演習:過去に法学教室連載されていた問題(ロースクールの授業での扱い)
 
2,公法系
(1)憲法
 基本書:芦部信喜「憲法」(有斐閣),安西文雄ほか「憲法学読本」(有斐閣)
(2)行政法
 基本書:櫻井敬子・橋本博之「行政法」(弘文堂),中原茂樹「基本行政法」(日本評論社)
 
3,民事系
(1)民法
 基本書:我妻榮「民法案内」(勁草書房),我妻榮「民法」(いわゆるダットサン,勁草書房),民法有斐閣Sシリーズ
 演習:松久三四彦ほか「事例で学ぶ民法演習」(成文堂)
(2)会社法
 基本書:伊藤靖史ほか「会社法(リーガルクエスト)」(有斐閣)
 演習書:石山卓磨「事例演習会社法」(法学書院)
(3)民事訴訟法
 基本書:伊藤眞「民事訴訟法」(有斐閣)
 演習書:山本和彦ほか「Law Practice民事訴訟法」(商事法務)
 
4,刑事系
(1)刑事系:基本刑法
 基本書:山口厚「刑法総論・各論」(有斐閣),大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ・Ⅱ」(日本評論社)
(2)刑事訴訟法
 基本書:ロースクールでの配布資料
 演習書:古江頼隆「事例演習刑事訴訟法」(有斐閣),安冨潔・清水真「事例演習刑事訴訟法」(法学書院)
 

第4 受験勉強Tips

1,勉強のモチベーション維持
 同じ場所で,継続して勉強をすると飽きることがあります。そうしたとき,科目を変えるというのも一つの作戦です。
 また,自習室,図書館,ラウンジ,喫茶店,自宅など,2~3時間程度で場所を変えると,気分が一新されます。トイレ休憩を兼ねて場所を変えるなどすると継続的に勉強に取り組めます。
 通学時間の有効活用についても要検討です。細かい時間をどう使うか,しっかりと考えてみてください。
 
2,居場所を作る
 現役生の頃は,それほどでもないのですが,浪人生となると途端に孤独な闘いに突入します。週に1度程度でよいので,どこかに自分の居場所を作るというのがおすすめ。私の場合は,国際法の学部ゼミに顔を出していました。また,法務研究所の特別授業やロースクールの演習に参加することもありました。
 
3,チェックリストの活用
 チェックリストとは,元来航空業界において,操縦手順が項目別に表示され,緊急時であっても混乱なく対応できるようにしたものです。紙や付箋を活用してもいいですし,アプリもあります。
 これを日々の生活もチェックリスト化していくと,今日一日にやるべきことを一つずつ片付けていけます。一日単位でもいいと思いますが,計画的に一週間単位のものを考えてもいいかもしれません。すべてのやるべきことをクリアしたら,もはや自由時間です。そういう意味では,インセンティブ的な要素を見出すことができます。
 
4,受験生以外の人とのつながり
 ロースクールでの学生同士で交流することやや自主ゼミを組むというのも有効かもしれませんが,司法試験と無関係な人とのつながりも必要だと思っています。私の場合,研究者志望の友人が多かったので,法学という土台は同じでも試験勉強をしているわけではない人とつながりがありました。案外,こうした人と関わる方が頭のリフレッシュ効果は高いです。
 
5,メモをよく取る
 指名されて誤答したことや起案でミスをしたことなど,後で必ず復習することはすぐにメモをとるといいでしょう。放課後や週末にでもまとめて調べれば,一度間違えたところですから,記憶に残りやすいです。
 
6,選択科目について
 選択科目は,早めに決めた方がよいです。遅くともロースクール2年次には決めていないと遅い気がします。学部ゼミ等でよく知っている科目を選択するというのも一つの手ですし,勉強して苦にならない楽しい科目であれば,なおさら良いと思います。私の場合は,学部ゼミが国際法であったことと,勉強して楽しいので,国際法一択でした。
 司法試験の過去問を一読して,それぞれどのような問題であるのかを確認してみてください。驚くほど科目によって毛色が違うはずです。

以上

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