明治大学法科大学院2014年修了 清原善美
1 はじめに
私は、大学3年生の時に進路について考えた際、やりがいがあり、かつ、仕事上の経験が人生の糧となるような職業に憧れを抱き、法曹の道を志望しました。そして、平成27年司法試験に、2回目の受験でなんとか合格することができました。本体験記では、1回目の受験時と比較して、「こうしておけばもっと早く合格に近づくことができたかもしれない」と思う反省点を交えて、自身の経験談をご紹介したいと思います。これから受験される方々のお役に少しでも立てれば幸いです。
2 司法試験受験までのスケジューリング
(1) 2月まで(特にやっておくべきこと)
ア 短答式試験対策
短答式試験対策は、あまり前倒しでやってしまうと身につけた知識を忘れてしまい、逆に非効率になる恐れがあります。私は法科大学院入学前から短答式試験の過去問題集に少しずつ手を付けていたのですが、やや時期尚早だったような気がしています。短答式試験対策は、少しずつ長期的に勉強するよりも、短すぎない相当な期間でなるべく間隔を空けずに詰め込んだ方が効率的であると個人的には思います。その際(特に一周目の段階)には、ただ問題を解いて解説を読むのにとどまらず、条文・判例や基本書をきちんとチェックし、解説ページに書き込むといった加工を施して、自分なりの一元化教材を作るようにすると良いと思います。私は短答の過去問題集に直接書き込んでおり、個人的にはこの方法がおすすめですが、別のノートや教材を作成しても良いと思います。とにかく、直前期に「(各科目)これ一冊見直せばOK」という教材を作ることが大切です。この作業を司法試験3か月前の2月までにはほぼ終えるようにして、3月以降は間違えた問題を中心に一気に見直すというスタイルで対策を行いました。
私は、2回目の受験期では論文対策に多くの時間を費やしたために短答対策にほとんど時間が割けず、結局短答対策に手を付けたのが4月下旬頃だったのですが(勿論これは良くない例ですが。)、1回目の受験期に作成しておいた上記一元化教材のおかげで、短答対策をなんとか間に合わせることができました。
イ 論文式試験対策
① 私の1回目の受験における最大の敗因は、インプットすることに重きを置きすぎて問題演習が疎かになったことでした。多くの合格者が仰っていることかと思いますが、1科目につき最低1冊は演習書をつぶしておくことが必要です。司法試験の過去問演習も勿論大切ですが、より多角的な視点を養うという意味でも、やはり演習書をこなすことが必要だと思います。問題演習をすることで、知識のインプットは勿論のこと、聞かれたことに対する考え方や答え方、判例や基礎知識の使い方等を鍛えることができます。こういった訓練は、本試験での時間短縮や答案内容の充実に繋がるので、極めて重要です。他方、問題演習不足は、想像以上に答案の出来にダメージを与えます。前述のように、私は問題演習に手が回らず、知識の使い方をきちんと鍛えなかったために、実際の本試験の場で、使うべき知識自体は頭に入っているのにそれが出てこない、問題文を読んでも何が問われているのかピンと来ない、といった状態になってしまいました。具体的な問題と、基礎知識との結びつきを把握するためにも、やはり演習書は必ずつぶしておくべきだと思います。
演習書は、各科目につき1冊程度、多くの受験生が使用しているような定評のある演習書を選ぶと良いと思います。
問題演習の内容としては、各問の答案を作成したあと、解説を読んで、解説に書いてある思考過程を身に着けるようにしました。具体的には、自分の思考過程がなぜ解答の思考過程と異なったのか、その原因を確認し、原因ごとに解消措置をとりました。例えば、知識不足が原因なのであれば、基本書や判例を確認したあと、演習書に基本書等の該当ページを記載しておいたり、必要であれば判例をプリントアウトしたものを挟み込んでおいたりして、以後定期的に確認するといった方法が挙げられます。そして、次に同じ問題が出た時にはその思考過程が答案に再現できるようになることが大切です。
私は以上の作業を、科目によってゼミで行ったり、単独で行ったりしました。ゼミでやるか単独でやるかは両者一長一短ありますので、残された時間や自分の勉強スタイルなどを考慮して、特にこだわらずとも自分に合う方で進めていくと良いと思います。
② 次に、論文式試験対策においても、一元化教材を作成しておくことが効率的であると思います。いわゆる論証集を、私は自分で加工して、論証+知識集として使用していました。論証集に関しては賛否両論ありますが、論証集そのものというよりは、論証集をただ丸暗記することがマイナスなだけなのであって、論証集の内容を自分で理解しているのであれば全く問題はないはずです。むしろ、今まで理解してきたことを短時間で想起できるツールとして、論証集などの一元化教材はやはり有益であったと思います。
そこで、2月までの時期に各科目につき1冊程度、一気に見直せる一元化教材を作成されることをおすすめします。
(2) 3月~5月
ア 短答式試験対策
直前期は、論文対策に費やす時間をいかに捻出するかが大切です。そのため、短答対策を特に効率化させる必要があります。この時期に短答の問題を解くことも、勘を鈍らせないためには良いのですが、全科目でそれをやっているとどうしても時間がかかりすぎてしまいます。そこで私は、この時期の短答の勉強として、問題文はさっと読む程度に留め、解説ページをどんどん読み進めていくという方法を採りました。解説ページには、前述のとおり自分で条文・判例や基本書を調べて施した書き込みがあるので、解説と併せて一気に読むことで、体系的な知識を効率よく確認することができます。各科目につき1冊のテキストをひたすら読むだけの作業で、場所をとらずに勉強できるため、あらためて短答の時間を取るというよりは、ちょっとした待ち時間や移動時間などを最大限に活用するようにしました。このような方法が果たして良いのか悪いのかは判断しかねますが、試験対策という意味では、一つの選択肢として採りうる方法なのではないかと思います。
そして、この時期に至ってもなかなか定着しない知識には付箋などで印をつけておいて、短答式試験本番の日の朝や休憩時間に見直すようにしていました。
イ 論文式試験対策
直前期の生活については、勉強のペースを落とす方も上げる方も様々いらっしゃいますが、私の場合は、それまで以上にペースを上げ、ラストスパートをかけて過ごしました。2月までに作成してきた一元化教材や演習書を、一気に繰り返し見直し、その他には、短答で出題される可能性が高い条文問題(例えば、刑法の執行猶予や保釈関係の条文、憲法の統治など)の条文の丸暗記を行っていました。
勉強面以外の過ごし方としては、ペースを上げた分体調管理に細心の注意を払いました。とは言っても基本的な事ですが、①うがい・手洗いを丁寧にこまめに行う、②ジャンクフード、インスタント食品やお菓子は避け、栄養バランスの良い食生活にする、③ごく軽いストレッチや筋トレをして疲れを取りやすくする、④睡眠をきちんと(最低6時間程度)とる、といったことなどが挙げられます。
私は一度不合格になっていた分、プレッシャーが重く不安でどうしようもない気持ちになることも多々ありましたが、とにかく割り切って、本番に向けて心身の状態を高めていくことだけに集中しました。
3 メッセージ
私は、政治学科出身であったこともあり、大学在学時は勉強仲間がほとんどおらず、孤独感に苛まれながら勉強することも度々ありました。そのような状況の中、法科大学院に入学して、自分と同じ志しをもった仲間に出会い、支え合ったことは、かけがえのない財産となりました。同志の言葉には、目先の司法試験のみならず、自分の人生に役立つヒントが多く存在していると思います。皆様も、そのようなヒントにアンテナを張りながら、どうか周りの仲間を大切にしてください。そして、仲間や、自分を支えてくれている方々に対する感謝の気持ちを忘れないでください。その感謝の気持ちが、落ち込んだ時や、勉強のやる気が出ない時に、再び自分を奮い立たせる原動力になるはずです。私は、共に勉強した仲間や、いつも支えてくれている家族に恩返しがしたい一心で、勉強を続けることができました。もしも私が、周囲の方々に思いを馳せずに自分のためだけに勉強をしていたならば、ここぞというときの踏ん張りがきかなかったのではないかと思います。周囲への感謝の気持ちを忘れないように、という言葉は、多くの合格者や先生方も仰っていることだと思いますが、その根本には、このような意味合いが含まれているのではないかと、私は思います。
最後に、受験を通して私が感じた合格のために必要なことは、
①正しい努力を、日々、真摯に継続すること、②最後まで諦めないこと
という2点です。新司法試験は、この2つの事を行えば合格できるものだと思います。程度の差はあれ、受験生は皆不安な気持ちを抱えています。そして、新司法試験になってからも、やはり合格への道のりが辛いことには変わりなく、これは、優秀かどうかといったこととは関係のない、多くの受験生が感じるところだと思います。
誰もが不安や孤独と闘っています。しかし、合格した時の喜びによって辛い経験は全て報われます。ネガティブな気持ちと向き合い、自分を上手くコントロールしながら、最後まで自分を信じて頑張ってください!