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予備試験合格体験記 私の予備試験合格法(2)
参考答案 27年度予備試験民訴問題をもとにして

〒104-0061 東京都中央区銀座4丁目13番5号
新銀座法律事務所 弁護士 門馬 博
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(平成29年12月31日執筆)

 
 

略歴

昭和24年生まれ
 
福島県相馬市出身
相馬市立中村第一中学校卒業
福島県立相馬高等学校卒業
明治大学法学部卒業(昭和48年)
明治大学大学院法学研究科財産法専攻終了(昭和50年)
昭和57年 旧司法試験合格 司法研修所 37期 東京弁護士会登録 19300
明治大学法曹会副会長
明治大学法曹会事務局長(平成27年6月27日より同29年6月26日まで)
平成29年7月から明治大学法曹会司法試験予備試験答案練習会幹事長

 
 

予備試験答案練習会の基本テーマ「考える勉強法」について

前回合格体験記 司法試験予備試験合格方法において 28年度予備試験民訴問題を執筆しましたが、平成28年に続いて平成27年度予備試験民事訴訟法問題の答案を私なりに書いてみます。参考にしてください。予備試験答案練習会の指導方針「考える勉強法」により書いたつもりです。なぜ問題となるか。条文上なぜ問題となるか。原理、原則からどう考えるか。なぜ学説が分かれるか。法体系上どのように考えるか。定義からどうなるか。なぜ利益対立があるか。三段論法からどうなるか。私が約40年前駿台法科研究室で教えていただいた「考える勉強法」を基に書きました。以上を覚えやすいようにしました。「原理(法体系)、原則、趣旨、条文、利益対立考えて、3段論法忘れずに、定義もしっかり覚えよう。」 予備試験答練の受験生へ、是非本番で試してください。分からない問題が出たら、論点、判例はすべて忘れ、上記の呪文を唱えてください。必ず書けます。書けるはずです。論点をまとめる時もこの視点から考えてください。本番、その場で考えること以外に合格はない。本番に備えこれを毎日実践すれば早期合格が可能です。この勉強法は、実務でも通用します。いわゆる論点主義は合格と同時に消えてゆく運命にあるといつも思っています。
 
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(設問1)について
 

1、 まず民事訴訟の本質からの理由が挙げられる。
民事訴訟とは、私的紛争を公権的、強制的に解決する手続きであり、適正、公平、迅速、低廉という理想に基づき遂行される(民訴2条、民法1条)。民事訴訟が私的紛争(民事事件)の実体法ではなく手続規定によるものである以上、私的自治の大原則(民法1条)、私有財産制(憲法29条)の土台の上に立つものであり、処分権主義(民訴133条、246条)は理論的に当然の帰結と言わざるを得ない。裁判所の判断は、当事者が求めた時、求める範囲でのみなされるのである。我が国が自由主義国家である以上自分の権利は当事者自らが自分の責任で考え、確保しなければならないのは当然である。事件の適正、公平、迅速、低廉な解決を図るという面からも処分権主義は妥当な制度である。処分権主義を前提にすると、裁判所の審判の対象である請求された権利、権利関係、すなわち訴訟物の内容、範囲 特定も当事者の責任となり、訴えを提起した者の考え、意思が判断基準とならざるを得ない。すなわち、事件の具体的内容を検討して当事者の訴え提起の際の合理的意思はどこあるのかをまず考えることが必要である。
交通事故における損害賠償請訴訟において財産的損害と、精神的損害は、確かに根拠条文(709条、710条)が異なるので別個の財産的請求をする意思と考えることも可能である。しかし、原告の請求は、交通事故という一回の事故、不法行為により生じた損害を最大限に認めてもらおうとするものであり財産的損害、精神的損害をすべて填補してもらうと考えるのが通常である。要は、求める金額の総額であるから別個の訴訟物と考えるのは、当事者の合理的意思に反し処分権主義の趣旨、訴訟物の内容、特定の判断基準にも反し採用できない。

 

2、 次に民事訴訟の理想である適正な解決という趣旨にも反する。損害賠償請求訴訟を適正に解決しようとすれば、実際に1回の交通事故から発生した当事者の行動態様、発生した損害の具体的認定、双方の過失内容を検討し判断することになるが、仮に、財産的損害と精神的損害を別個の訴訟物と考えると当事者は別個の訴えを提起することができ、場合によっては裁判所の判断が互いに異ななり矛盾する事態が発生し公権的、強制的判断の統一が取れなくなり適正な解決ができない。

 

3、 又、当事者の公平な解決というという面からも妥当性が認められる。同一訴訟物であれば、当事者の攻撃防御方法の提出も同一事故という視点から争点を絞り提出が可能となり公平な証拠提出、主張等ができるはずである。

 

4、 さらに迅速な解決という面からも妥当である。交通事故はそもそも交通手段たる自動車に人命を侵害する危険性を内包するものであり、被害者の救済は自賠責、無過失責任等に現れており、一刻も早い損害填補が求められるのである。訴訟物が同一であれば、争点も明らかであり攻撃防御方法の提出も促進され迅速な解決につながる。

 

5、 以上から低廉性すなわち訴訟経済上も妥当性を有するのは明らかである。

 

6、 次に、訴訟物を同一と考える具体的利点についてであるが、当事者の合理的意思から同一の訴訟物と考えることにより財産的損害と精神的損害の認定が金額において異なったとしても総合的に考えることにより原告が主張する1000万円の請求を認定することが可能となる。

 
弁護士A提起した訴えの理由。
 

1. まずAが提起した一部請求であることを明示して訴えが認められるかを考える。これはいわゆる一部請求の訴訟物は何かということと関連するので問題である。民訴の条文上も明らかでなく解釈が求められる。

 

2. 私は一部請求であることを明示しても認められないと考える。すなわち一部請求の訴訟物は1000万円であり700万円は、請求の上限を示したものである。理由は以下のとおりである。(1)確かに処分権主義(民訴246条)の原則からは主導権は原告にあり請求額を分割して請求できるようにも思われるが、民訴の理想から認められない。一部請求を認めると、訴訟物を分断、細分化し訴え提起が可能になり、裁判所の判断が矛盾抵触の可能性があり適正な解決につながらない。また被告の反論も別個の訴訟ごとに求められて防御方法が十分に取れない可能性があり被告にとり不公平である。この点被告は1000万円全額が訴訟物であり争点が明らかであり攻撃防御も不利益を受けない。加えて訴の追加が予想され訴訟の迅速化、訴訟経済にも合わない。(2)一部請求を認める考えは、分断された訴訟物について裁判所の判断が矛盾する可能性に対して、これを是正するため信義則(民法1条)による主張制限で対応できると考えるようであるが一般理論である信義則にあまり頼るべきではないし、当事者の公平、迅速性、訴訟経済上も対策が難しいので採用できない。

 

3. 次に、過失相殺と訴訟物の関係が問題となる。条文上明らかでないし判決に影響を及ぼすからである。自説からは訴訟物は1000万円の請求であり、700万円はその上限を単に示したものである以上過失相殺300万円は1000万円全額から控除されることになる。従って700万円が全額認容されることになる。Aは 一回の訴訟で700万円の印紙代で出費を少なくして全額の認容を受けるのでこの方法を選択したものである。

 

4. 以上の考え方によると 仮に裁判所が過失相殺の額を3割ではなくそれより少なく認定するような場合に結局700万円しか認容されず不利益になるようにも思われる。しかし、このような事態に対しては、請求の拡張(訴えの変更 民訴143条)で柔軟に対応が可能なので問題はない。訴えの変更は時期に遅れない限り控訴審でもできるのでさほど不利益ではない。

 

5. 仮に、一部請求を認める考えに立つと700万円が訴訟物となり、700万から300万円の70%である210万円を過失相殺として控除し(訴訟物は7割なので、過失相殺も7割)結果的に490万円の認容となってしまい別訴を起こす手段が残されているとしても迅速性から原告にとり不利益となってしまい紛争の一挙解決ができない。また訴訟経済上も妥当な考えではない。過失相殺の額が少なく認定され場合、別訴でさらに請求して利益を確保できるという考えもあろうが、紛争の一挙解決の利益、迅速性、訴訟経済上妥当性が見いだせない。

 

6. さらに、一部請求を認め 1000万円全額から過失相殺3割を認める考えもあるが理論的に筋が通らず採用できない。

 

7. 以上からAの判断は理由がある。

以上

 
(解説)
本問は、古典的論点である一部請求を認めない立場から書いてみました。一部請求を認める説によると違った説明になります。一部請求を認めなお且つ本来の訴訟額1000万円から過失相殺(3割)を認める説もあるようですが理論的に筋が通らないので取りませんでした。民事訴訟の原則、定義(民事訴訟とは、私的紛争を公権的、強制的に解決する手続きであり、適正、公平、迅速、低廉という理想に基づき遂行される(民訴2条、民法1条)。)から理由を考える方法を参考にしてください。どのような問題でも対応可能と思います。民訴はどのような問題でも、すべて回答が同じ内容になるので不思議です。これが私の「考える勉強法」です。模擬試験と異なり本番では反対説暗記は不要。判例暗記も不要。自分の考えを書くのです。自説がしっかりしていれば自ずと反対説を思いつき批判できるはずです。司法試験委員は基本原則からの論理の流れを重視するはずです。論点、判例を知っているかではありません。法解釈とはそういうものです。
 
(平成29年12月23日執筆)

 

尚、合格体験記についてご質問がある明治大学の受験生は☏、メール、FAXで事務所までご連絡ください。お名前、電話番号、メールアドレスを必ず付記してください。電話またはメールでアドヴァイス致します。

 
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平成27年予備試験論文問題
 
[民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,1:1) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい(なお,解答に当たっては, 遅延損害金について考慮する必要はない。)。
  
【事例】 弁護士Aは,交通事故の被害者Xから法律相談を受け,次のような事実関係を聴き取り,加害者 Yに対する損害賠償請求訴訟事件を受任することになった。
1.事故の概要 Xが運転する普通自動二輪車が直進中,信号機のない前方交差点左側から右折のために同交差 点に進入してきたY運転の普通乗用自動車を避けられず,同車と接触し,転倒した。Yには,交 差点に進入する際の安全確認を怠った過失があったが,他方,Xにも前方注視を怠った過失があった。
2.Xが主張する損害の内容 人的損害による損害額合計 1000万円 (内訳) ⑴ 財産的損害 治療費・休業損害等の額の合計 700万円 ⑵ 精神的損害 傷害慰謝料 300万円
 
〔設問1〕 本件交通事故によるXの人的損害には,財産的損害と精神的損害があるが,これらの損害をま とめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合について,訴訟物は一つであると するのが,判例(最高裁判所昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)の 立場である。判例の考え方の理論的な理由を説明した上,そのように考えることによる利点につ いて,上記の事例に即して説明しなさい。
 
〔設問2〕 弁護士Aは,本件の事故態様等から,過失相殺によって損害額から少なくとも3割は減額され ると考え,損害総額1000万円のうち,一部請求であることを明示して3割減額した700万 円の損害賠償を求める訴えを提起することにした。本件において,弁護士Aがこのような選択を した理由について説明しなさい。

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