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合格体験記 私の司法試験合格法

横山 賢司

平成22年(2010年)合格 (司法研修所64期)
平成21年(2009年)明治大学法科大学院卒業

 
(この合格体験記は平成23年頃に作成したものです。)
 

1.自己紹介

氏名 横山賢司
略歴 明治大学卒業。司法浪人、社会人経験を経て、平成19年(4期既習)で明治大学ロースクールに入学。卒業時GPA2.06という下から10番以内というお世辞にも優秀な成績と言えない成績で同ロースクールを平成21年(2009年)卒業。第4回新司法試験不合格後、法律事務所で事務員の仕事をしつつ、第5回新司法試験合格。ただし、これもお世辞にも良い成績と言えない。現在、第64期司法修習生(あと数日で無職の予定)。
 

2.司法修習について

 実務に出るまでの修業期間だけでなく、利害関係を離れて、裁判官、検察官、弁護士と付き合える期間。自分たちの「身内」として様々なことをネタばれしてくれる期間といえる。
また、責任を負うことなく、様々なことにチャレンジさせてくれる期間でもある(当然、社会人のマナーに外れた行為については、責任を取らされます!!!)。そういった意味では、今までできなかったことや、好奇心の湧いたことにチャレンジできる期間でもある。
とにかく、人生の中で一番面白く、今まで見ることのできなかったモノに触れ、充実した生活が送れる期間となり得る機関である。
 

3.司法試験についての考え方

以下、合格後に法制研に提出した合格体験記を抜粋、改訂したものを引用(注:手抜きではないです!!!)。
 
第1、はじめに
 私は、勉強方法や教材は各人の好み、各人の適性により様々であると考えています。むしろ大切なのは、各人が本試験で求められている各科目における処理の思考過程を確立することが大切なのではないかと考えます。
 したがって、どのように勉強した、どのような教材を使ったかを話さずに、この一年間で、自分が考えて結論を出した「本試験で求められている各科目の処理の思考過程」について記載したいと思います。皆さんの勉強の参考になれば幸いです。
 
第2、各科目の検討
1、憲法
(1)法令違憲
 ア 権利侵害
(ア)本問において制約された行為の確定
(イ)憲法上の権利についての定義・規範を提示
(ウ)制約された行為の意味づけをした上で、上記の定義・規範に該当するかを検討する
(エ)制約が権利侵害に当たることを指摘する
 イ 審査基準
 ウ あてはめ
(ア)目的
 ① 制約の根拠となる法律が何のために制定されたかを法律の規定や法律の成立過程から抽出して目的として認定する
 ② その目的が世間のニーズからして本当に必要なのかを検討する
(イ)手段
 その目的に照らして、法律の規定の仕方が必要最小限度か、有効性があるかを判断する。
 具体的には法律に規定している手段が及ぼす影響を具体的に分析して、どのような利点、欠点があるかを発見し、それがより制限的な手段といえるか(必要最小限)、より有効な手段といえるか(実質的な関連性)を判断する。
(2)適用違憲(条文解釈型)
 ① 本問において行為を制約した処分の根拠法令を探し、その要件を抽出する
 ② 各要件の規範を人権の性質に照らして、広範に解釈するか、縮小して解釈するか検討する
 ③ 制約された行為がその規範に該当するか、該当しないかを検討する(権利侵害の有無を認定)
2、民法、会社法
 ①要件事実を確定する
 ②各要件において解釈が必要であれば論述をする(いわゆる論点を検討する)
 ※ 民事の実体法において論点とは要件をどのように解釈するか(=規範の立て方)の争いをいうと考えます。ですから、論点について論述することが求められているとしても、要件事実の構造を示し、どの段階におけるどの要件事実の問題なのかということから問題提起をする必要があると思います。
3、刑法
 ① 構成要件を確定して
 ② 規範を定立して
 ③ 構成要件に規範をあてはめる
 ※ この作業を淡々と行うことが必須である。
4、民事訴訟法
(1)第1段階 訴訟要件or本案要件の検討
 <区別基準>
 ① 訴訟行為の効力、裁判自体の存立の問題⇒訴訟要件の問題
 ② 事実の主張、証拠の提出の問題 ⇒本案要件の問題
(2)第2段階 各要件の検討
ア 訴訟要件
 当事者、当事者能力など各訴訟要件の規範・定義を提示した上で、問題文の事実をあてはめをする。
イ 本案要件
 ① 訴訟物、請求原因等の要件事実を確定させる
 ② 要件事実を立証する証拠、推認させる間接事実を確定させる
 ③ 前訴がある場合は、既判力の消極・積極作用が及ぶ具体的な範囲を確定する
 ④ ①~③を確定して、当事者の主張する事実・立証する証拠が民事訴訟手続の中で、どこに位置づけられるかを確定し、それが弁論主義や処分権主義、既判力の消極的作用・積極的作用等に抵触しないかを検討する
5、刑事訴訟法
(1)捜査
ア 強制処分・任意処分のどちらにあたるかを検討する
イ 強制処分に当たる場合
 ① 当該処分が法律上の根拠があるか
 ② 当該処分について令状があるか、ある場合令状との関連性(記載物件、被疑事実、対象者)を検討する
 ③ 本来予定された処分か、付随処分かを判断し、付随処分に該当するときは、「必要な処分」(刑訴法111条1項)に該当するか検討する
ウ 任意処分
 必要性、緊急性、相当性を検討する。
(2)訴因の特定について
 ① 問題となった犯罪の構成要件を確定する
 ② 構成要件に該当する具体的な被疑事実を想定する
 ③ 検察官より訴因として提示された事実が他の犯罪事実と区別することができる程度に具体的であるかを検討する(識別説の見解)
 ④ さらに、訴因が抽象的であるときには、訴追されている行為が特定されず、被告人側の防御に支障が生じるかを検討する
(3)伝聞法則
 ① 問題となった犯罪の構成要件を確定
 ② 構成要件に該当する具体的な被疑事実を確定
 ③ 被疑事実を推認、証明する間接事実、証拠を確定
 ④ 問題となった供述調書のどの供述の部分がどの間接事実を証明することになるかを確定
 ⇒ ④を確定することで、要証事実が確定できる
 ⑤ 当該供述調書が要証事実との関係で、内容の真実性が問題となるか検討
 ⇒ 具体的にいうと、供述した人が直接目撃しておらず、人から又聞きした時には、直接目撃した人に目撃内容を直接確認しなければ供述内容が真実かどうかわからないので、供述内容の真実性が問題となる。他方で、直接目撃した時には、当人が経験したことを直接書面の形で供述したことになるので、内容の真実性が問題とならない。
 ⑥ 伝聞・非伝聞を確定した上で、各伝聞例外の要件の該当性を検討
6、行政法
(1)処分性・原告適格
 処分性・原告適格の検討では、行政庁が行った行為がどのような過程を経て行われ、行為後にどのような処理がなされるかを分析する必要があります。
 そうすれば、権利義務の形成・範囲の確定するものか、個別的利益の保護するものかという認定の部分において厚みのある論述を展開することが可能となります。
(2)裁量
 裁量では、処分権限者に裁量が付与されているのかという問題と、具体的な事案において処分権限者の裁量の行使はその範囲を逸脱・濫用したのかという2つの点が問題となります。そして、前者の裁量が付与されているのかという問題で、処分性等と同じように条文構造を示す必要があります。具体的に示すと以下のようになります。
 ① 処分の根拠となった根拠法令を探す(処分権限の有無の確定)
 ② 処分権限の性格を確定する
 ※ 確定の仕方は、処分権限を付与した趣旨や、処分の要件、審査会の有無などから判断する。例えば、専門・技術的な判断が必要となるときには、処分の要件には専門知識が羅列されたり、処分を行うときに専門家が集まった審査会の審査が求められたりします。それらの規定を示して専門的な判断が必要であるという処分権限の性格を確定することができます。
 ③ 裁量があると判断したときには、「処分を行うための考慮要素、処分を行うかどうかを判断する視点を示した上で、処分権限者に裁量が認められる」と論述する
 ※ 考慮要素や判断する視点は②で検討した処分の要件の規定や趣旨から抽出することができます。いわば、③の論述は②で検討したものをまとめただけのものといえます。
 ④ あとは、逸脱・濫用は違法となるという定型的な論証を貼り付けて逸脱・濫用についての検討をすればよい。
(3)処分等の違法性の検討
 処分等の違法性の検討では、いきなり事実のあてはめをするのではなく、必ず、①処分の要件について規範定立をして、②あてはめという形で論述を行ってください。行政法も法律解釈の問題なので、法律解釈の基本である規範定立⇒あてはめの形を崩さないように気をつけてください。
 
第3 気をつけて欲しい点
1、判例の見方
 判例においては、論点、規範、当てはめの事実に着目すべきなのは当然ですが、自分はあえて以下の点に注意すべきと考えます。
 ① 判例がとった結論に大きく左右した事実(勝敗を分けた事実)はどの事実なのかを探す
 ② 判例が事実(特に勝敗を分けた事実)をどのように意味づけしているかを考察する
2、あてはめの仕方
 あてはめは評価が必要だ、ということは言われていますが、どのようにするのかについては具体的になっていません。そこで、自分は、評価とは、事実が規範・要件との関係でどのような意味を持っているのか説明することをいうと考えます。
 たとえば、「ごみ」とは、人がいらないと思い捨てた物を意味します。そこから、ごみとは処分権を放棄した物を意味することになります。そうすると、ごみを捜査官が持ち去ってもごみを捨てた人との関係では、当人の所有権を侵害しないことになり、結論として、所有権侵害という権利の侵害は生じず、捜査官の行為は強制処分に当たらないと、認定できることになります。あてはめはこのように行うと考えると良いのではないでしょうか。
3、問題文の見方について
 私は、問題文を依頼人が弁護士に対して求める要求書であると考えています。したがって、依頼人(出題者)が要求する解答に従い、答案を作成する必要があると思います。
 つまり、処理の筋としては間違っていないけれども、出題者が求める論点を見過ごしたり、切り捨てたりすることは、依頼人の話を無視していることと同じとみなされてしまうので、法曹としての資格がないと出題者に認められてしまうことになります。
 したがって、問題文を見るときは、出題者がもとめる論点を抽出し、これに沿って答案を構成し、問題の解決にいたる方法論を考えることが大事であると考えます。
 出題の趣旨などに書かれている論点抽出能力とは、出題者が求めている論点を抽出する能力をいうと考えます。これが試験の点数を大きく左右する(むしろ、命にかかわる)要素だと断言します。
* なお、K○大学や○稲田大学など上位ロースクールの若手合格者達は、この試験を「点取りゲーム」と言っていました。そして、点数が振られているのかどうかを分析し、点数を合理的に獲得しやすい方法を研究していました。このやり方が良いかは別として、彼らの考え方は、一応出題者が求めていることに答えようとする努力をしていることには変わりがありません。このことからも、出題者が要求することに、素直に答えることが大事であると改めて思いました。
4、論述の仕方
 論述をする際には、自分の筆量に合わせてどの分量でどの論点を書くということを常に考える必要があります。自分の場合、構成に長い時間が必要だったので、1ページあたり12分(最速で10分)目安を立てて、6ページの答案を作成すると仮定すれば、書く時間を1時間10分から1時間15分となり、構成の時間は45分から50分になると目安が付けられます。そこから、構成の段階で、どのくらいの分量を各論点に割り振るかを決めていました。
 また、この試験は常に時間不足の危険にさらされています。時間不足により途中答案やパニック等を回避するためには、分量を減らしても答案を完成させる訓練をすることが大事だと思います。そこで、自分が考えた訓練の仕方とは、ある文章を要約する「ひとこと」や、一番重要なキーワードを捜す訓練をすることです。これにより、問題文のベタ貼りで生じる時間と紙面の無駄を大幅にカットすることができ、かつ、事実の取りこぼしが防ぐことができるようになります。
 
第4 教材
 冒頭で、どのような教材を使うかについて各人の好みであるということを言ってしまいました。ですが、個人的にみなさんにぜひ使ってほしいと考えている教材があります。
 どこぞの回し者ではないですが、みなさんの勉強に役立てて欲しいという純粋な気持ちから、自己矛盾と知りつつも、あえて教材の紹介をします。
 ① 会社法 類型別会社訴訟(判例タイムズ社)
 ⇒ 会社法における「紛争類型別」というべき本で裁判官が会社訴訟における主要な訴訟について執筆しています。実務に出ても必ず役立つ本であると思います。
   この本は、訴訟物、請求原因など要件事実に沿った流れとなっているため、会社法においても要件事実的な発想が養われて、答案構成がやりやすくなると思います。
 ② 労働事件審理ノート(判例タイムズ社)
 ⇒ 労働法の個別的労働事件の分野における「紛争類型別」に当たる本です。上記の類型別会社訴訟と同じく裁判官が執筆を行い、実務でも役立つ本であると思います。この本も要件事実に沿った流れとなっています。
 ③ 刑法総論講義案(司法協会)
 ⇒ 刑法総論で論じられている基本的な知識がコンパクトかつわかりやすくにまとめられた良い本だと思います。なんといっても通説・判例ベースで書かれているのがうれしいところです。ちなみに、今年の本試験で問われた過失の処理の仕方も懇切丁寧に図解入りでこの本に書かれていました。
 ④ 某予備校が出版している俗に「トリセツ」と言われている本
 ⇒ この本は、本試験でどういうことを書けば点になるか、逆にどういうことを書かなければ点にならないのかを教えてくれる本だと思います。優秀者の答案だけではわからない点になるポイントを研究するには良い本ではないでしょうか。
 
第5、結語
 私の本試験での成績は、お世辞にも良いとはいえません。その点で、自分の言葉には説得力がないことは認めます。
 しかし、本試験での点数が悪い理由は、論点落ちが多々あったからです。そして、自分の得点の分布はすべての科目で、平均より下回る点数を取ることはありませんでした。
 これらのことから、上記のように、本試験で求められている思考を確立することができれば、採点官も平均点をつけざるを得ないのではないかと考えています。
 この試験は平均点さえそろえれば試験に合格することができるのですから、処理の思考過程の確立は最低限試験に合格する道を確立することにつながるのではないかと思います。
 法科大学院は、このような思考を教えてくれません。ならば、自分で探し当てるまでです。これらの思考は日ごろから考えていれば身につきます。(本当に、この法科大学院は何もしてくれません!!!特に修了生に対して冷たいです・・・(泣))
 そして、周囲の環境は刻一刻と悪化しています。
 このような逆境を克服して、皆様が合格することを願っています。

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