合格体験記 私の司法試験合格法
工藤 慎太郎
1 経歴
岩手県出身
2012年 明治大学法学部法律学科卒業
2014年 明治大学ロースクール(既修)修了 司法試験不合格
2015年 司法試験合格(2回目,総合550位)
2 不合格の要因と反省の契機~演習と条文素読の不足~
私は,1回目の受験では,過去問や演習書をほとんど解かずに本番に向かいました。刑事系論文の過去問や演習書を一度解いたのみで,それ以外についての演習は全くの手つかず状態でした。その結果,短答では民事系科目の際に試験時間を勘違いしてしまい,民事訴訟法の問題を1問も解けませんでした。また,論文では時間配分が全くできず,答案の後半がとても雑になってしまいました。
また,当時の勉強方法は専ら「基本書を読みこみ,まとめノートを作る」というもので,条文を読むという作業を怠っていました。その結果,答案を書く際に適切な条文を示すことができず,条文の指摘がなされていない自由作文になってしまいました。
これらの失敗をした結果,短答は通ったのですが,論文では得点が伸びず,不合格となりました。
3 反省
不合格を予想したので,1回目の受験の後直ちに勉強を始めました。本番での失敗を踏まえて,2回目までには,①条文素読を何回かすること,②各科目演習書を1冊はやること(短答含む),③過去問を最低1回は解いて出題趣旨・採点実感を読み込むこと,の3点をしっかりやることを決めました。
4 反省の実践1~短答の勉強方法
科目数の削減による平均点の上昇が予想されたので,問題数が多く解説の詳細な肢別本を利用しました。猿楽町の自習室を利用しており電車での移動が必要であったので,電車での移動時間(往復40分)を短答の勉強にあてました。1周目で不正解だった肢・正解しても自信を持って答えられなかった肢にチェックを付け,2週目以降ではその肢のみを解きました。総じて5,6回は解いたと思います。その結果かどうかはわかりませんが,短答では155点をとることが出来ました。
肢別本は,新司の過去問に加え旧司の過去問も一部収録しており,短答過去問パーフェクトよりも問題数が多いので,短答演習の足りない方にお勧めできます。もっとも,憲法短答は最新判例の理解を聞く出題傾向となっているので,肢別本のみで十分な対策ができるかどうかは疑問です。実際、私は,憲法については36点しか取れず失敗しています。高得点を狙う方は,判例六法などで最新判例を勉強することが必要になると思います。
5 反省の実践2~論文の勉強方法~
(1) 1回目の試験では条文が指摘できず,自由作文となってしまったので,まずは条文を素読することにしました。ただ条文を読むだけでは飽きてしまうので,既に作ってあった基本書のまとめノートを六法に書き込む作業を並行しました。また,判例がどの条文のどの文言を問題にしているのかしっかり把握するために,判例付きの六法を利用し,判例の読み込みも並行しました。
この作業が一通り済んだ後は,各科目について市販の演習書を解きました。具体的には,憲法の急所,事例研究憲法・行政法,スタンダード民法・民事訴訟法,会社法事例演習教材,刑法事例演習教材,ロースクール演習刑事訴訟法,ヤフオクで購入した予備校の模試(租税法)をやりました。上記の反省を実践するために,問題提起から結論までの思考過程を,条文,条文の文言,論点についてのキーワードを挙げて示すという形での答案構成を行いました。答案を書くということはしませんでした。
過去問については,各問題を1回は解いてみました。租税法については演習が足りないと感じていたので2回解きました。また,刑事訴訟法については伝聞分野が難しく感じたので,その分野のみ2回解きました。過去問についても,答案を書くということはせず,上記と同じように答案構成をするということで済ませました。出題趣旨,採点実感で自分が出来なかった点を確認し,ノートにまとめ,本番直前に確認できるようにしました。
(2) 以上の通り,私は論文対策としては,答案を書くという作業を一切しませんでした。個人的には,この作業をしないからと言って答案が書けない,点数が取れないということはないと思います。結局は,自由作文にならないような答案(条文の指摘と三段論法)を書ければそれで良く,この点を常に意識していればそれで足りると思います。「書く」という作業に拘り過ぎるのは,場合によっては,むしろ合格から遠のいてしまう可能性さえあると思います。各々の勉強の進行度に応じてバランスをとることも重要だと思います。
6 論文の成績と目安
勉強方法は人によってそれぞれだと思うので,ここで詳しく書いてもあまり参考にはならないかもしれません。これに対して,本番の採点基準は絶対的なものなので,「このくらいの出來でこのくらいの点数」といったイメージを持つことが重要であり,私の答案の失敗した点と成績を示せばイメージの参考になると思うので,示してみたいと思います。出題趣旨・採点実感が既に出ているので,そこで答案の問題とされている点で私の答案に当てはまるものを挙げてみたいと思います。
(1)公法系 約104点(1478位)
①第1の差別について,原告の主張で差別が無いと断定しそれ以上の論証をやめ,具体的なあてはめを一切していない点,②「信条」の検討を一切していない点。
・行政法
①誘導文を読み間違え,本件基準の合理性を一切検討していない点,②個別的審査義務の検討が明後日の方向に向かっている点。
(2)民事系 約175点(664位)
①対抗要件の抗弁に触れていない点,②被害者側に過失があるということを,具体的事実を示さずに認定している点。
・会社法
①名義説・計算説に触れていない点,②第一取引と第二取引を当然に別々の取引として扱った点,③「重要な」の点の解釈が全くの誤りである点,④行使条件変更の限界の検討がないに等しい点。
・民事訴訟法
①弁論の分離について一切触れていない点,②不当利得返還請求の要件へのあてはめがなされていないに等しい点。
(3)刑事系 約125点(335位)
①建造物侵入について長々と論じている点,②共犯の錯誤に触れていない点,③取り戻した行為を恐喝と認定した点,④具体的事実の錯誤に触れていない点。
・刑事訴訟法
本件メモの伝聞例外の検討が薄い点。
(4)租税法 46点(162位)
7 司法試験のレベル
大きなミスを複数してしまっているにもかかわらず,点数が著しく低くは出ていないことからすると司法試験合格のレベルは高くは設定されていないような気がします。「条文の理解に基づいてその場で考えて論証を組み立てる」姿勢が答案で示されていればそれで足り,判例の細かい理解や応用的な論点について知っていること等は一切求められていないと思います。
いわゆる「あてはめ」の部分については,事実を問題文から引用するのみでは足りず,事実を自分の言葉で評価し,要件との関係性を示すことが重要だと思います。事実を評価することは相当難しい作業ですが,司法試験では,「拙いながらも自分の言葉で評価する」姿勢を答案に示せればそれで足りると思います。
8 最後に
司法試験に残念ながら落ちてしまう人の中には,1回目受験時の私のように,最低限やるべき過去問の検討を怠っている人もいると思います。しかし,明治大学法科大学院を修了した身としては,周りにこの種の学生はいなかったと思います。にもかかわらず,合格率が一向に上昇しないのは,「条文の理解に基づいてその場で考えて論証を組み立てる」姿勢を答案で示すという意識と,その前提としての適切な条文を答案に示すという意識が低いからだと思います。司法試験合格のレベルを再確認して,条文の素読・基本的判例の理解に努めるべきであると思います。
私も,1回目の受験の際にはこのような意識が足りず失敗しています。平成26年の司法試験合格者から「民法だけで条文を50条は指摘した。」というアドバイスを受け,自分もそれを本番で実践できるような勉強をしてきました。このアドバイスをどのように受け止めるかは人によると思いますが,私の合格のための重要な鍵となったことは確かですので,是非皆さんに伝えたいと思い合格体験記を書きました。私の合格体験記が皆さんの勉強方針の参考になれば幸いです。