合格体験記 私の司法試験合格法
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インテグラル法律事務所
弁護士 内田 裕之(新64期)
第1 はじめに
新64期弁護士の内田裕之と申します。私は明治大学法学部法律学科在学中に弁護士を志し,その後上智大学法科大学院(2年制コース)に入学・卒業し,平成22年に新司法試験に合格いたしました。選択科目は環境法です。現在は弁護士として,一般民事・家事,中小企業法務,刑事事件などに関する弁護を行っております。
以下,多少古い内容となってしまいますが,私が受験時代に心がけるようにしていたことについて述べたいと思います。合格に至る道筋は人それぞれですので,どこか参考になる部分は一部でも取り入れて自分なりの合格方法を見つけ出していただければ幸いです。
第2 総論
1 法律論文の考え方(法的三段論法)
司法試験は,裁判官・検察官・弁護士といった法律実務家になるための試験と意識することが必要です。ここで,法律実務家に要求される能力とは,(1)法律等の条文を見つけ出し適切に解釈した上で,(2)当該紛争(事実関係)に法律を適用して,適切な解決を図るというものです。
この点は,法律論文(司法試験)においても同様に当てはまると考えられます。法律論文は,概ね 事実関係 ⇒ 法律要件 ⇒ 法律効果(法的紛争の解決)という論理構造になっており,いわゆる法的三段論法という思考方法で整理することができます。
(ア)大前提(法解釈) 「法律要件 ⇒ 法律効果」
当該法律・条文の要件(法律要件)からどのような法律効果が生じるか。必要に応じて,当該条文の法解釈(規範定立など)を行う。
(イ)小前提(法適用・あてはめ) 「事実関係 ⇒ 法律要件」
事実関係(問題文)に対して,当該条文・規範をあてはめ・適用する。
実際の答案においては,先に条文解釈(法解釈・規範定立)をしてから,それを事実に当てはめる(法適用)という順序になります。
普段の勉強の際にも,この区分けを意識すると考えが整理しやすいと思います。もっとも,あくまで思考整理の方法であり,実際の答案では上記形式で必ず答案を書かなければならないというわけではありません。事案や問題形式に応じて柔軟に考える必要があると思います。
2 法解釈面,インプット
⑴ 条文から出発することの重要性
法的紛争・事実関係(問題文)に対して,適切な条文を文理解釈で適用するだけで問題が解決できる場合もあります。
仮に,条文を文理解釈するだけでは有効に問題が解決できない場合(あてはめられない,不公平な結論が生じるので解釈を変更する必要など)にはじめて,条文の文言を解釈(拡張・縮小・類推解釈,その他条文の文言をあてはめやすいように規範に置き換える作業)する必要があります。
論文試験本番で使用できるのは六法だけですが,条文を実際に引き,しっかり読み込んでおくことは,条文の適用場面・法解釈の記憶喚起にも役立つと思います。私も,六法(判例六法)については条文が出てきた都度,なるべく引くようにしていました。
⑵ 正確な法的知識(条文の要件効果,趣旨,規範)の必要性
また,大前提のさらに前提となる法解釈(趣旨,規範)については,ある程度の正確な知識が必要になります。
私は,法科大学院在学中は,パソコンでサブノートを作成していました。サブノートには,定評のある基本書・択一六法などから,条文の趣旨,要件,効果,及び法律要件の内容を具体化した規範を引用していました。規範は判例があるものについてはまず判例,次に通説という順番でした。
また,後述のあてはめの際のポイント(判断の際の考慮要素,あてはめ方)もなるべく記載するようにしていました。授業の際に学習した事項も,こちらのサブノートに一元化していました。
サブノート自体は,既に予備校の択一六法などがありますのでそちらに書き込みをしながらでも構わないと思います。私は,2年間という時間に余裕があったこともあり,在学当初から自分で作成しました。この作業は,記憶の定着にも有用ですし,試験直前に総ざらいする資料として重要なものでした。試験直前の1カ月程度はこの資料を見直すことによって合格につながったと思います。
3 法適用面(あてはめ),答案作成において注意していた点
私も答案で全く違う論点を記載してしまったり,趣旨や論証パターンの貼り付けが無駄に長くなってしまったり,あてはめがうまく論述できなくなったり,論文作成には試行錯誤しました。どの論点がどの場面で適用されるか(適用場面),論じる必要性・重要性(メリハリ),問題文の事実を規範との関係でしっかり評価するなど,意識する点は多数あるように思います。以下,法適用(あてはめ)面において,心がけていたことを述べます。
⑴ 判例の読み込み,分析を行う。
判例を読む際には,判断枠組(規範定立)の部分と,あてはめ(事例への適用)の部分を区別して読むようにし,該当箇所にはそれぞれ別々のマーカーを引いていました。また,授業で扱うようなかなり重要な判例については調査官解説を読むことも有用とも思います(こちらは余裕があればで良いと思います)。
⑵ 条文と規範の適用場面を意識する。
基本書の事例や問題集の解説,判例の事案部分をみて,条文・規範の適用場面のイメージを持っておくと,間違いは起きにくいのではないかと思います。
⑶ 規範の考慮要素に着目する。
すなわち,各規範の考慮要素を押さえておくと,事案で引用すべき事情が分かり,当てはめもしやすくなります(一例:窃盗罪における「窃取」=①財物の大小,②搬出の容易性,③他の者の支配の領域内かなど)。この点を意識している基本書を日々の勉強のベースにしたほうが良いと思います(例えば,佐久間先生「民法の基礎」などは参考になりました)。また,当てはめの際にポイントとなると自分が考えた事項は,サブノートにまとめて一元化していました。
⑷ 事案の事情を使う。答案で事実を評価する(規範とのつながりを意識)。
まずは,問題文の事実関係をできるだけ多く使うことを心がけたほうが良いと思います。また,問題文本文のほかに参考資料がついていることがあります。出題者側としても,意味なく参考資料を付けていることはしませんので,その記載内容をよく検討し,答案に記載して,条文・規範へつながるように評価することが必要と思います。
また,問題文の事実関係を羅列し,規範に当てはまるという形式的な内容の司法試験の答案が多いように思われます(自分もそうでした)。しかし,そこからさらに進んで,当該事実が規範になぜつながるのか,事実の評価を(簡単でもよいので)書くと,読み手側に対してより理解してもらいやすい答案になるのではないかと思います。この点は,事案の評価が解説に記載されている問題集やこの点を意識している基本書を読むこと,意識しながら答案を書くことで,ある程度トレーニングが可能です。
⑸ 司法試験の過去問を解く。出題趣旨,採点実感(ヒアリング)を読み込む。
特に,論文試験については,出題の趣旨,採点実感・ヒアリングが公表されています。こちらについては,全文プリントアウトして良く見返していました。出題趣旨は試験委員が記載してほしい事項,論文答案の作成の考え方が良くわかりますし,自分の答案・考え方とのずれも認識することができます。また,採点実感等についても試験委員の意見が形式面・内容面双方において詳細に記載されています。答案のあてはめ面に関する事項も記載していますので,非常に参考になりました。特に参考になった点などは,同じくサブノートにまとめていました。
⑹ 答案を書いて,検討する。
答案を書いた後は,数人で自主ゼミを組み,各自の答案を添削しあい,気になった点を指摘しあうなどしていました。答案は書きっぱなしにするのではなく,誰かに見てもらい,修正していく作業が重要になります。
ただ,ある程度の広い正確な基礎的知識がないままに,やたらに答案を書くのは効率的な時間の使い方ではないと思います。私は,どちらかというとインプット作業を中心にし,無理のない範囲で答案作成を行なっていました。
⑺ 時間配分や配点を意識する。
また,答案作成における時間配分も重要だと思います。例えば,2時間の論文作成時間がある場合,答案構成は全体の3分の1程度(2時間であれば40分)を目安とし,書き始めるタイミングも意識する必要があると思います。私は,作成時間の半分を超える場合には,とりあえず書き始めるようにしていました。答案作成の時間配分は人それぞれだと思いますので,答案練習を通じて自分に合った時間を見つけていただければと思います。
⑻ 未知の問題への対処を考える。
例えば,私の場合は,以下のように考えていました。まず,法的三段論法の枠組みを意識しながら,適用が考えられる条文を検討・指摘の上,そのまま文理解釈で適用できるか,反対・縮小・拡張解釈などで対応できるか,条文の趣旨解釈も踏まえて考えます。
その上で,必要に応じて適宜の規範定立(趣旨からして限定・拡張して解釈する必要があるか,考慮要素としてどのような事情を上げるか(当事者の属性,受ける利益・不利益の内容・重要性,帰責性,動機や目的,行為の種類・内容・態様,結果等考慮要素のピックアップ,行為時・その前・その後どの時点での事情・時的要素に着目するか),問題文の事情を十分に拾える基準かどうかなど)を行います。そして,問題文の事情を拾い,法的な意味づけ・評価をしながら当てはめを行うことで,ある程度の形の答案にするというものです。
第3 各科目ごとの勉強
1 憲法
まず,判断枠組(違憲審査基準)については,あらかじめ答案の枠を作っておきました(判断枠組決定に当たっての考慮要素など)。司法試験出題趣旨・ヒアリングには当てはめの際のポイント(合理性の判断など)が記載されており,非常に役立ちました。また,審査基準の組み立て方について触れている本(小山憲法上の権利の作法,宍戸連載)も読むと理解が深まります。ただ,審査基準自体については,受験レベルではあまり深入りする必要もないと思います。
また,実際の答案で重要となるのは手段審査及び実際の事案への当てはめ(事実評価)になります。必要性・合理性といった判断基準について,あてはめ方のイメージを作っておくことが重要と思います。事実評価については,最近の重要判例の実際の当てはめ部分を読み込んでおくことが役に立つと思います。
【使用教材】判例六法,択一六法(予備校のもの),芦部「憲法」,高橋「立憲主義と日本国憲法」,小山「憲法上の権利の作法」,宍戸「憲法 解釈論の応用と展開」,出題趣旨とヒアリング(採点実感)
2 行政法
訴訟要件については,事前準備で答案の枠を作ってしまうことに尽きると思います。骨格となる基本書をもとに,各訴訟類型の要件ごとにサブノートにまとめ,規範を含めしっかりと正確な知識を付けるよう心掛けました。
本案審理(違法事由)については,個別法の解釈が問題となりますが,未知の法律の解釈を論じさせることも多いところです。司法試験には本案審理に関して,弁護士の会話などで,論じてほしい事項が指示されていますので,それを厳守することが重要と思います。指示事項はマーカーを引くなどしていました。
その上で,個別法の解釈について,どの条文の問題か指摘→(その法の趣旨は何か)→法解釈・規範→法適用・当てはめという順番で淡々と論じていくことを心がけていました。
個別法の解釈については,重判(特に,下級審判例はあてはめが詳細だったりします)などの当てはめ部分を読み込み,また,当該条文がどのような趣旨で設けられたのかを意識すると,あてはめの力がつくと思います。
【使用教材】判例六法,行政法判例百選,択一六法(予備校のもの),櫻井=橋本「行政法」,宇賀「行政法総論,行政救済法」,出題趣旨とヒアリング(採点実感)
3 民法
また,要件事実(請求原因事実,抗弁,再抗弁)や法律効果の整理については,要件事実マニュアルが非常に参考になりました。この本で主張立証の構造も意識できるようになり,理解が進みます。
答案練習も重要ですが,基本的にはインプットが中心となる科目であるように思います。
【使用教材】判例六法,自由国民社「択一式受験六法」,佐久間「民法の基礎(総則,物権)」,道垣内「担保物権法」,中田「債権総論」,内田民法(参考程度),山本「契約」,要件事実マニュアル
4 商法
司法試験の論文によく出てくる分野(設立,株式,機関,役員の責任当の主要な条文)については,あてはめのポイントをつかむために,類型別会社訴訟を読みました。
【使用教材】判例六法,新・会社法100問(葉玉),神田「会社法」,リーガルクエスト会社法,類型別会社訴訟
5 民事訴訟法
また,民訴法はイメージがしづらい科目ですので,どのような事案・場面でどのように用いられるのか,ケースブックや基本書の具体例とできるだけ結び付けて理解するよう試みました。
教材については,講義案を使っていました。定義・趣旨・規範・要件効果についてよくまとまっています。民事訴訟は,上記の基礎概念のほかに,実際の手続(条文)についても理解する必要があり,裁判所書記官向けの本である講義案は役立ちました。理解が足りない部分や事例問題対策については,解析民訴を並行して使いました。
【使用教材】判例六法,択一六法(予備校のもの),民事訴訟法講義案,藤田「講義民事訴訟法」・「解析民事訴訟法」
6 刑法
また,共犯事案の論述の仕方はかなり迷いましたが,リーガルクエスト刑法総論の該当部分を読み,理解がかなり進んだと思います(あてはめにおいても大いに参考になりました)。共犯事案が出題されている過去問を検討することも有用です。
また,実際に答案を書くにあたって使用した問題集として,事例から刑法を考えるが非常に役立ちました。こちらの本は,あてはめの際のポイントもかなり多く盛り込まれています。
【使用教材】判例六法,西田「刑法総論」・「刑法各論」,山口「刑法」,リーガルクエスト刑法総論(特に,共犯部分),事例から刑法を考える
7 刑事訴訟法
論文では出題される分野がある程度限られており(捜索差押,訴因,伝聞など),あてはめ(法適用)部分でも差が出ると思いますので,その研究も必要だと思います。司法試験の出題趣旨等に加え,演習刑事訴訟法その他問題演習に加え,刑事訴訟法判例百選,重要判例のあてはめ評価に役立ちそうな部分の読み込みも行いました。
【使用教材】判例六法,刑事訴訟法判例百選,択一六法(予備校のもの),有斐閣アルマ「刑事訴訟法」,演習刑事訴訟法,ケースブック刑事訴訟法
8 環境法
分野としては,環境法政策と環境訴訟がそれぞれ2問ずつ出題されるのが通常です。法政策に関しては事前準備が特に重要で,ケースブックなどを読んで,基本原則,手法論のそれぞれのメリット・デメリット,現行法(中心となるのはいわゆる環境十法)の問題点及び解決策を押さえておく必要があります。訴訟に関しては,典型論点の解説はケースブックに詳細な記載がありますので,しっかり読み込んで正確な知識を押さえておく必要があります(受忍限度,複数汚染源の差止請求等)。また,争う手段についても,訴訟以外の仮処分や行政的紛争処理など多くの内容を答案に記載すると点が伸びると思います。
【使用教材】環境法ケースブック,大塚「環境法」,ロースクールの各種授業の資料
第4 最後に
本合格体験記が,受験生の皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。皆様の司法試験合格を祈念しております。