司法試験予備試験合格体験記
枝窪 史郎
明治大学法科大学院2013年卒業
1 平成30年度予備試験成績
短答式試験: |
憲法24点、行政法24点、民法16点、商法21点、民事訴訟法24点 刑法24点、刑事訴訟法22点、一般教養39点、合計194点(324位) |
論文誌式試験: |
憲法A、行政法C、民法A、商法E、民事訴訟法A、 刑法A、刑事訴訟法A、一般教養C、法律実務基礎B 総合得点277.41(93位) |
口述式試験: | 119点(361位) |
2 勉強の姿勢
私は、明大法曹会の答案練習会を受講していたのですが、その当初、および、それ以前は、論文式試験の勉強法として、問題集・過去問・答練で答案を書く→参考答案と解説を読む→出題論点について参考書等で復習をするという勉強法をとっていました。これ自体はオーソドックスな勉強法であり、間違いではないと思います。
しかし、その際、後述するような点を意識せず、論点を覚える、書くという点に囚われ、いわゆる論点主義といわれる考え方をしていたため、私の答案には、以下のような問題があったと思います。
・1つ1つの論点は一応理解しているが、法体系や全体構造に関する理解・意識が欠けており、答案において、うまく理解を示せない。
・どこで論点に触れるかの順番、バランスがおかしい。(論点に飛びつく)。
・論点を覚え、それを答案に書くことを重視しすぎて、全体として聞かれていることに答えていない。
・同理由より、あてはめに対する意識が薄い。
(2) 覚える勉強から考える勉強へ
ア 以上のような問題点を解消するための方法として、明大答練の担当講師の先生方や、友人のアドバイスを基に、インプット・アウトプット両面において、それまでの覚える勉強から、考える勉強法に切り替えることを意識して勉強しました。
イ まず、インプットにおける考える勉強とは、論点や論証を、なぜ?の思考で、論証パターンや、参考答案から、原理・原則、法文、法の趣旨に遡って考えることです。
このように考えていくことのメリットとして、原理・原則、法文、法の趣旨に遡っていく中で、法体系や、法全体の構造を意識するようになります。そうすると、各論点がなぜ出てくるのか、論ずべき理由、つながりが分かるようになり、前述のような、論点に触れる順番、バランス、流れについての問題が解消できました。
また、法の趣旨、条文の文言を重視して参考答案や参考書を読むことで、論証を暗記するのではなく、理解することができるようになり、記憶に定着しやすく、文言を忘れていても、その場で書けるだけの実力がつくようになったと思います。
ウ(ア) 次に、アウトプットにおける考える勉強とは、二点あると考えます。
まず、一点目は、問題文で聞かれていることは何か、誰が何を求めているのか、何を主張したいのかを考えることです。
この点をしっかり意識することで、前述のような、論ずる順番を間違えるといった問題や、何から論じていくかが分からないということがなくなり、また、全体として、ちゃんと聞かれたことに答える答案を書けるようになったと思います。
(イ) アウトプットにおける考える勉強の二点目は、あてはめをその場で一生懸命考えるということです。それまでの自分の傾向として、論点についての論述を書くことに執着するあまり、あてはめについては、あまり重視しておらず、参考答案等のかすかな記憶や、なんとなく関係ありそうという感覚から事実を拾って羅列し、よって、法~条にいう○○にあたり、同条を満たす、というような書き方をしていました。
しかし、答案において求められていることは、事案における事実について法律を適用し結論を導くことであり、そのためには、事実を摘示したうえで、これに評価を加えることが重要となります。
評価とは、適示した事実について、「この事実は、法の趣旨が…ということにあることからすれば、社会通念上、△△といえるのだから(評価)、法~条にいう、○○にあたるといえる」といった形で行います。その際は、ここに示した通り、法の趣旨や社会通念(常識)から、自分で考えることが重要だと考えます。よほどおかしなことを書かない限り、割と自由に書いてよく、私の答案も、自分で法の趣旨などに照らして考えたということが示せたときは、高い評価がついていたように思います。
3 答案の型を確立する重要性
(1) 答案の型とは、答案を作成する際の具体的な流れ、書き方のテンプレートを指します。各科目や、論点毎に、(受験的な観点からいえば)この答案の型が存在すると思います。これをしっかり構築することが、インプット、アウトプットの両面において、非常に重要であったと考えます。
(2) メリット
ア 答案の型ができていることで、まず、答案が全体として、流れのよいものになります。これは、非常に重要で、採点者に、言いたいことが伝わりやすく、必要に応じて論点が出てくるといった流れができるため、文章的にも、法的思考としても、優れた答案になります。
イ また、たくさんの論点の中で何から書いていくのかといった順番を間違えづらく、論点を落としづらくなります。
ウ さらに、基本的な書き方さえ分かっていれば、アウトプットの練習に時間を割く必要がなく、勉強の効率化を図ることができます。
エ そして、参考書や、参考答案を読むといった、インプットの際も、今、型でいうところのどの部分の話をしているかを意識することで、理解が高まり、記憶にも定着しやすかったと思います。
これにより、択一の勉強(肢別の解説、択一六法、条文の素読)さえ、論文の勉強に直結していたと思います。
(3) 答案の型の学び方
答案の型については、私の場合は、明大答練を活用していました。参考答案について、参考答案のこの部分は、何の話をしているのか、解説の時間などに考えながら読み、作成した講師の先生に、どのように書いたらいいか聞いてみるという方法をとっていました。明大答練では、講師の先生が皆実務家である=司法試験に合格しているから、答案の型について、優れた型を持っているはずだし、参考答案作成者に、自分が答案を書いた直後に、直接質問できる機会は非常に貴重であるし、即起案力に繋がったと思います。
(4) 参考
答案の型について、明大法曹会のHPに、憲法・行政法といった、特に答案の型が定型的であり、その確立が点数に直結すると思われる科目について、私が使用していたものを具体的に掲載しておりますので、よろしければ御参照下さい。
また、民法においては、請求と抗弁といった、法律実務基礎科目(民事)における重要概念についての理解が、そのまま、どのような問題にも対応できる、最も基本の型になっていると思いますので、早めに法律実務基礎科目(民事)の勉強を始めることが有益であると考えます。
4 具体的な勉強方法・使用した参考書
(1) 論文式試験の勉強としては、私は、前述の明大答練を活用した以外は、主に、「えんしゅう本(辰巳法律研究所)」を用いて、起案はせず、答案構成して解答・解説を読むといったことを繰り返していました。これは、答案の型の構築や、典型論点の理解に役立ったと思います。
また、「伊藤真試験対策講座(弘文堂)」を、法律の全体構造を理解することを意識して読んでいました。
これらを選んだ理由としては、内容が平易であることが一番の理由です。法体系の理解や、法知識は、繰り返しながら、段々定着させることが必要だと考えます。なので、自分にとって分かりやすい本を使うことが大事だと思います。
(2) 短答式試験の勉強法としては、「考える肢(早稲田経営出版)」を用いて、問題を解き、解説を読み、その後、「完全整理 択一六法(東京リーガルマインド)」を読み込むという方法をとっていました。
択一式試験対策は、後回しにしがちですが、私は、早くから行うことが、予備試験においては重要だと感じました。予備試験では、択一式試験に合格しないことには、論文式試験を受けられないという構造である上、あくまで自分の実感としてですが、科目の多さや、一般教養科目で点数を取りづらいことから、択一式試験が一番の難関であると思います。
私の場合は、択一式試験の問題を解くことは、事例に対する判断を養う練習になり、択一試験対策はもちろん、論文の勉強にもなると考え、論文式試験の勉強と並行して行っていました。
5 最後に
予備試験は、非常に大変な試験だと思います。しかし、やり方を間違えずに、努力をすれば、決して合格できない試験ではないと思いました。私の場合は、明大法曹会答練の中で、問題演習のみならず、講師の先生方のアドバイスや、講演の中から、前述したような考え方を学ぶ機会があったため、やり方を間違えることなく勉強ができた点でも、非常に環境に恵まれていたと思います。
自分ひとりではできない点は、人に助けてもらいながら、支えてもらいながら、努力を続けることが大事だと思います。