司法試験合格体験記 私の司法試験 及び予備試験合格法
渡辺 桂
平成22年 明治大学法学部 卒業
平成27年 司法試験予備試験合格
平成29年 司法試験合格
1 経歴等
私は、平成27年の予備試験に合格し、平成29年の司法試験に合格しました。
平成22年に明治大学を卒業した後は就職し、司法試験と縁のない生活を送っていましたが、社会人になってから数年が経った頃、予備試験の合格者が年々増加しているというニュースを知りました。予備試験であれば働きながらでも司法試験の受験資格を得られるところに魅力を感じて、予備試験の受験を決意し、2回目の受験で予備試験に合格しました。
2 短答試験の勉強法
予備試験の受験を決意した直後は、明治大学法学部を卒業して以来、数年ぶりの法律の勉強でしたので、まず、予備校が出版している六法と行政法の入門書を数回通読することから始めました。
また、それと並行して、インターネットで予備試験合格者と司法試験合格者の合格体験記を読み漁り、司法試験合格までの自分なりの勉強法を考えました。その結果、社会人として働きながらの受験であり、勉強時間が圧倒的に不足する自分の場合は、基本書を読む時間を確保できないので、短答の過去問を解くことで基礎知識を手早く習得し、できる限り論文対策に集中することが必要との結論に至りました。
この勉強方針は、今振り返ると自分にとって正しい選択でした。ただ、論文の勉強に集中するとはいえ、最初の1年間は、勉強時間の大半を短答対策に充てざるを得ませんでした。
入門書の通読を終えた後は、予備校が出版している体系別の問題集を使用して、予備試験と司法試験の短答過去問を解き始めました。問題集はどの予備校のものを使用してもよいと思いますが、私は通勤時間に電車内で問題を解くことも想定していたので、持ち運べるように、本の厚さができるだけ薄く、解説が簡潔な記載のものを選びました。
短答過去問の演習で基礎知識を身に着けると決めたとはいえ、各科目の入門書を読んだ直後に予備試験や司法試験の過去問をいきなり解くことは大変で、特に、範囲の広い民事系については解説を理解するのも一苦労でした。
そこで、民事系については、短答過去問の演習と平行して、池田真朗『スタートライン債権法』や中野貞一郎『民事裁判入門』といった、初学者の独習に配慮されている書籍を通読しました。公法系と刑事系については、その当時、適当な書籍を見つけることができなかったので、短答の過去問を解いていて分からない箇所は、有斐閣の『法律学小辞典』を使用して基本的な概念や制度をその都度調べていました。この段階では、ほぼ全ての問題が不正解でしたが、特に気にせず、問題文を読んだ上で解説を理解することに力を注ぎました。
こうして、予備試験と司法試験の全ての短答過去問(一般教養科目は除く。)を1周解いた後、すぐに2周目にとりかかりました。2周目は通勤電車の中でも解き始めましたが、電車内では調べものをすることが困難なので、間違えた問題や解説を読んでわからない箇所にはふせんを貼り、帰宅後に調べるようにしていました。また、気になる条文は、スマートフォンのアプリを使って条文の文言を確認することもありました。
このような方法で短答過去問を2周解き終えたところで、3月になっていましたので、5月の短答試験までの間に、これまでに間違えた問題をさらに1回解きました。
また、直前期には、前年度の予備試験の短答過去問を、時間を計って解きました。
一般教養科目については、事前の知識がなくてもその場で考えて解ける問題が一定数あり、それだけで20~30点程度は確保することができたので、過去問2年分を解いて試験本番での問題の選び方を確認し、それ以外の対策はとりませんでした。
以上の勉強の結果、短答試験は予備試験の1回目の受験から通過することができました。
3 論文試験の勉強法
予備試験の受験勉強を開始した後の1年は、上記の短答対策をこなすことに精いっぱいで、論文対策はほとんどできませんでした。そのような中で挑んだ初めての論文試験では、問題文を読み間違えたり、思いついた論点を書き損ねたりするなどした結果、E・F評価を連発し、惨敗でした。この結果を踏まえて、予備試験の受験勉強2年目は、論文の勉強を中心に行いました(以下、主に受験2年目の話です。)。
初めての論文試験の受験時は、そもそもどのように答案を書けばよいかが分からないという状態でした。ですので、まず、独特の出題形式に苦手意識のあった憲法と、法学部時代に講義をとっていなかった民事訴訟法及び刑事訴訟法について、下記の演習書を使用して、1~2日に1問のペースで、パソコンで答案を作成することから論文対策を始めました。
〇予備試験論文対策で使用した演習書
憲法 木村草太『憲法の急所』
行政法 曽和俊文他『事例研究行政法』
民法 貞友義典『貞友民法LIVE過去問解説講義―決定版 (司法試験)』
商法 黒沼悦郎他『Law Practice 商法』
民訴 山本和彦『Law Practice 民事訴訟法』
刑法 大塚裕史『ロースクール演習刑法』
刑訴 古江頼隆『事例演習刑事訴訟法』
※上記以外に、宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開』と和田吉弘『司法試験論文本試験過去問 民事訴訟法 (解説講義・実況中継) 』(旧司法試験)を通読しました。どちらも憲法・民事訴訟法の理解を深めることにとどまらず、各科目に共通する論文問題を解く際の思考方法を学べるのでお勧めです。
演習書を使った答案作成は、自分なりの論文作成方法の模索と、演習書の理解を深めるためのものと割り切っていたため、辞書目的で購入した基本書なども参照しながら論文を作成しましたが、後で読み返すことはありませんでした。また、演習書の設問が答案作成に不向きな場合は途中で答案の作成を打ち切ることもありました。
民法、商法、刑法及び行政法については、これらの科目全てで答案を作成すると膨大な時間がかかることから、答案作成は行わず、演習書の設問を読み、頭の中で答案構成を数分行った上で解説を読むことをもって、論文対策としました。
演習書は、司法試験合格者のブログ等を参考に選びましたが、難易度が高いものも含まれており、読み通すことはできても内容を理解できておらず、予備試験合格後に再読して初めて理解できたと感じたものもありました。
次に、予備試験の論文過去問については、直近2年分の模範答案作成を行いました。答案作成にあたっては、特に制限時間は設けず、予備校が出版している合格者の再現答案を参照しながら、論文試験当日に自分が書ける(思いつける)言葉を用いて、かつ、試験本番で自分が書ける文量で模範答案を作成しました。(私は辰已法律研究所『司法試験予備試験論文本試験科目別・A答案再現&ぶんせき本』の再現答案を利用しました。)
私が論文試験の制限時間内に書ける文量は、答案用紙でおおむね3枚以内(文字数で言うと1400~1600字程度)で、予備試験に合格した年の試験本番で書いた枚数も1科目につき答案用紙2枚~3枚程度でした。
自分なりの模範答案作成を通じて、合格者の答案を一行一行吟味・検討し、自分の言葉に置き換える訓練をしたことは、論文の実力向上に効果があったと思います。ここで作成した答案も、あくまで論文の作成能力を高めるためと割り切っていたため、後から読み返すことはありませんでした。
また、いわゆる答案練習会には参加しませんでした。これは、答案練習会の拘束時間の負担が社会人にとって非常に重たいということと、制限時間内に論文を書く訓練は、論文の書き方が身につくまではデメリットの方が大きいだろうと判断したためです。時間を計っての答案作成は、直前期に予備校の論文模試を1回受験するのみに留めました。
論文試験の直前には、典型論点の知識に漏れがないか心配になり、辰已法律研究所『合格答案が即効で書けるようになる本』の公法系・民事系・刑事系3冊を通読しました。受験生が大体知っている論点をコンパクトにまとめた本として、直前期には利用価値があると思います。
法律実務基礎科目については、この科目を重視することが早期合格に重要だという合格体験記を読んで、なるほどと思ったので、以下の書籍をそれぞれ1回通読しました。
〇法律実務基礎科目対策で使用した教材
(1)大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎』上下巻(この中では一番お勧めです。)
(2)新庄健二『刑法・刑事訴訟法・刑事実務 論文虎の巻』
(3)法曹会『民事訴訟第一審手続の解説』、『刑事第一審公判手続の概要』
(4)東京リーガルマインド『新・論文の森 法律実務基礎』
法律実務基礎科目は、予備試験の論文試験において、点数配分が他の科目2科目分と高いうえに、実務家登用試験である予備試験、ひいては司法試験の論文問題を解く上で必要な思考方法(要件事実など)を習得できるので、他の科目より優先して、入門段階を過ぎたらすぐに着手した方が良いと思います。
なお、一般教養科目の論文については、特に対策を行いませんでした。
以上の勉強を経て臨んだ2回目の予備試験で、論文試験を通過することができました。
4 口述試験の勉強法
口述試験は、ほとんどの人が合格する試験です。私は論文試験に合格するとは思っていなかったので、口述試験の対策は、論文試験の合格発表後、情報収集から開始しました。口述試験合格者のブログ等によれば、平成27年当時の傾向としては、民事は要件事実が中心、刑事は実体法を聞かれることが増えてきているという印象を受けました。そこで、論文試験の合格発表から口述試験までの約2週間の間に以下の対策を行いました。
(1)口述試験過去問(各予備校が出版・配布しているもの)の読み込み
(2)大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎』上巻の通読(主に要件事実の部分)
(3)民法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の短答過去問の解説を読んでの記憶喚起
(4)民事訴訟法と刑事訴訟法の条文の素読(一部の重要な規則も含む。)
(5)辰已法律研究所『司法試験予備試験法律実務基礎科目ハンドブック〈1〉民事実務基礎』の民事執行法・民事保全法と弁護士倫理部分の通読
これらの口述試験対策の間は、口述試験中に参照が許される予備試験用法文(論文試験の受験生は論文試験後に持ち帰れます。)を使用して、できるだけ条文の確認を行いました。
また、口述試験で最も大切な対策は模試です。私は予備試験と司法試験の受験勉強を通じて予備校の講座をほとんど利用しませんでしたが、口述試験については、予備校が実施する模試が非常に重要です。論文の合格発表後、各予備校の口述模試の受付枠がすぐに埋まってしまうので、乗り遅れないように注意が必要です。
口述試験では、面接官と円滑なコミュニケーションを取れることが試されるため、社会人としての経験が役に立ちました。初対面の人との会話は、ある程度は慣れの問題ですので、面接官とのコミュニケーションに不安がある場合は、不特定多数の方と話す機会があるアルバイトなどをすることも有意義ではないかと思います。
このような対策をして臨んだ口述試験は無事突破でき、結果として、2回目の受験で予備試験に合格することができました。
5 予備試験と司法試験の違い
予備試験に向けた勉強は、ほぼ全て司法試験に役立ちます。予備試験合格者であれば、司法試験の論文過去問を出題趣旨・採点実感を踏まえて分析し、後は選択科目の対策を行えば、司法試験に合格できると考えます。
私は、予備試験合格後に論文過去問の分析と選択科目の対策を始めましたが、試験までの半年間ではどちらの対策も中途半端になってしまい、初回の司法試験は不合格で、2回目の受験で司法試験に合格しました。
予備試験と司法試験の論文試験には設問の傾向が共通する科目もあるので、深入りしないよう気を付けつつ、予備試験の受験中から司法試験の過去問に取り組むことも一つの方法だと思います。
6 最後に
これまで、私の採った勉強法を書いてきましたが、予備試験と司法試験の受験勉強において心がけていたことは、法律の勉強をできる限り楽しむことです。予備試験や司法試験の勉強に忍耐が必要であることは否定し難いところですが、自分でもよくわからない論証を無理やり暗記したとしても、試験本番でそれを使いこなすことは困難です。その時々の自分のレベルに合わせて、一歩一歩、階段をのぼるように各法律科目の理解を深めていくことで、果てしない道のりに見える予備試験や司法試験の勉強も、充実感を覚えながら進めることができると思います。私の体験記が、少しでも予備試験や司法試験を受験する方の参考になれば幸いです。