司法試験合格体験記 私の司法試験合格法
川島 豊
佐久市岩村田1872-13
あさま法律事務所
電話 0267-88-7048
FAX 0267-88-7058
1 経歴
川島豊といいます。長野県佐久市で弁護士をしています。明治大学法科大学院を平成24(2012)年3月に修了し,同年の司法試験に合格しました。司法修習は66期です。
ご参考までに,私の経歴はこんな感じです。
●地元の公立高校を卒業
●広島大学法学部を卒業
●長野県警察の警察官として勤務
●地元の市役所に勤務(在職中に厚生労働省への出向を経験)
●市役所を退職して明治大学法科大学院に入学(未修),修了
●司法試験に合格,青森で司法修習
●地元である佐久市に法律事務所を開設し,現在に至る
2 法曹志望の動機
以下,私の行き当たりばったりの痛々しい青年期を紹介せざるを得ません。
私の父は裁判官をしていましたが,私は全くその影響を受けずに育ちました(むしろ,「大変だから絶対になるな」と言われていました笑)。あまり勉強にガミガミ言わない家だったこともあります。高校では野球,大学では野球とゲームに打ち込んでいましたが.特に将来のことも考えておらず,大学卒業後すぐ,中学生の頃から漠然と憧れていた警察官になりました。
私が勉強をしたいと考え始めたのは警察官になってからです。最初に6カ月教育を受ける警察学校の授業の一環で,警察官僚の方のお話を聞く機会があり,「自分もちゃんと勉強しておけば,こういうダイナミックな職種に就けたのかもしれない」と感じ,とても後悔しました。それ以来,しっかり勉強をするようになりましたが,いつしか私は,警察官僚を目指して国家公務員のⅠ種(現在は「総合職」というようです。)試験を目指すようになっていました。迷走の始まりです。
結果だけいえば,その2年後,地元市役所の在職1年目に国家公務員Ⅰ種試験に合格したものの,最終関門である「官庁訪問」(要するに,各官庁への就活です)で内定をもらうことができず,官僚になるという無計画な夢は霧消したわけです。なお,その年は,衆議院法制局Ⅰ種,参議院事務局Ⅰ種,国会議員政策秘書試験を節操なく併願していましたが,面白いように,すべて最終面接で落ちました(笑)。
いま思えばこれがよかった。
市役所に腰を据えて頑張ろうかと切り替えようとしたときに,既に退官して弁護士をしていた父から,「せっかく一生懸命勉強したんだから,司法試験やらないか」と持ち掛けられました。実はこのころ,組織の中で生きる自分に限界を感じていました。ある課題にチームで立ち向かうという作業にはやりがいを感じるものの,同じ組織に何十年も所属することは耐えられない(もはや理屈ではない),という自分の厄介な特性に気がついたのです。
そこで,法曹資格を取れば,究極的には独立して仕事ができるようになるという思いと,もっと勉強したいという知的好奇心もあいまって,司法試験を受けようと決めたわけです。さらにそこへ,父から法科大学院在学中の生活費を保障されるというエサが付き,まんまとこの世界に足を踏み入れました。
3 短答式の勉強方法
短答式に関しては,知識問題ですので,やはり基礎知識を定着させることが大前提です。これは短答式対策に限りませんよね。
具体的な対策といえば,後でお話しする論文対策と同じですが,敵を知ることが重要だと思います。つまり,過去問を解くことです。
過去問を解く際には,多肢選択式であることは置いておいて,1つ1つ,肢(選択肢)を理解しながら解いていくことが大切です。本番では,正解すればそれでいいので,たとえば5つの肢の全てが理解できなくても正答にたどり着けることが結構あります。しかし,試験勉強として取り組むとしたら,それではいけません。どのような形で肢が構成されても正解できるように,その肢の本質を理解して,理由付きで結論を出せなければなりません。答えだけ覚えても意味はないというのは皆さん分かると思います。
つまり(?),なぜその肢が「真」なのか(民法○○条の文言そのままである,判例の理屈と同じである,通説である等々),あるいは「偽」なのか(民法○○条の文言と××条の文言がすり替わっている,判例で否定された理屈である,判例と結論に至る理由が異なる等々)を,理解した上で正答を導き出せるまで突き詰めることが理想です。
なぜそこまでやる必要があるかというと,そこまで問題の本質を理解していないと,短答でも論文でも,応用がきかないからです。
ある条文を,他の類似するケースにも適用できるか(類推適用の可否),ある判例の理論が,他の類似するケースにも妥当するかどうか(いわゆる判例の射程が及ぶか否か)は,その条文又は判例の意味するところを正確に理解して,初めて判断できるのです。
我妻榮さんの「法律における理屈と人情」(日本評論社)の例を借ります。『ここに馬を繋がないでください』という立て札があるところに,牛を繋いでいいかどうか。そのルールの趣旨が,馬を繋がれると糞尿が垂れ流しになり,衛生面で非常に迷惑するのでやめてくれ,という意味であれば,牛だって当然ルールに抵触するでしょう(類推適用)。他方,馬が蹴飛ばすことに着目して,そこには蹴られてはまずい大切なものが置いてある,だから馬は勘弁してくれ,という意味であれば,牛は蹴らない(ホントかなぁ…。一応本の例ではこう書いてあるので,そういうことでよろしく。)からセーフだということになります(反対解釈)。
このようなものの考え方は,条文や判例の考え方を理解して初めて可能になるのであり,そうでなければ,似たような事例に太刀打ちできません。司法試験の短答式問題で過去問と同じ事を異なる表現で問うてきた場合にも,太刀打ちできません。そのような問題に対応するためには,基礎を鍛えるしかないと思います。そのための方法論は人によってまちまちですが,いわゆる基本書・体系書の類は避けて通れないと思います。別に何種類も読破する必要はなくて,ちゃんと通して読んで理解するのは1冊で十分だと思います。ちなみに,私が民法の勉強でバイブルにしたのは我妻榮さんの「民法案内シリーズ」です。
基礎力を身につける努力をする➡並行して過去問を解く➡過去問を解きながら分からないところは基本書や判例に立ち返る…地道ですが,この作業の繰り返しが力を付けることにつながると思います。
なので,いろんなことを暗記する必要は全くありません。もちろん,何度も一生懸命反復して勉強していたら,結果的によく読む条文の文言や判例の表現を覚えてしまった,というならそれはそれで素晴らしいです。でも,それは,「条文や判例の文言は暗記しないといけない」ということではありません。条文を正確に引用したければ六法があればいいし,判例を正確に引用するなら判例検索サイトがあればいいですよね。でも,全く同じ事件というのは存在しませんし,法律の条文や過去の判例を分析・理解して,それを武器に新たな問題に立ち向かうのは,生身の人間としての法律家しかできない仕事です(いつかAIに取って代わられるかもしれないですが…。)。
つまり,われわれの仕事は,類推解釈と反対解釈を毎日無意識に繰り返している感じなのです。受験勉強だって,そういう能力の獲得と一直線につながっていると思います。
そんなわけで(?),色々と後付けの理屈もありますが,私の短答対策はこんな感じです。
4 論文の勉強方法
まずは過去問を初見で解くことだと思います。それも本番と同じ2時間で。おそらくは「本試験ってこんなに大変なのか!受かるのかな,これ…」とショックを受けると思います(たぶん)。
短答と同じで,まずは敵を知ることです。法曹になってあんなことをしよう,こんなことをしようと想像力を働かせるのは結構ですし,モチベーションを維持するためには大切なことですが,まずは試験を突破しなければなりません。
私は,受かるまでは司法試験マニアに徹して試験問題を研究することが合格の近道だと考えました。
そのためのバイブルは,なんといっても合格発表後に法務省のHPにアップされる出題趣旨と採点実感(採点者の意見)です。
ここには,「今年度のテーマはこれだ!」というネタバレと,「答案にこういうことを書くな!」という禁止事項が書き込まれています。私は,まずは後者の把握がより重要だと考えています。
出題趣旨・採点実感には,2時間以内で長ったらしい問題を読み解いて手書きの答案を作らなければならない受験生のことなどお構いなしに,厳しいお言葉が並んでいます。たとえば,
①理由を述べずに結論だけ書いても論じたことにならないので点数にはならない
②総花的に各論点に広く浅く言及するよりも,その問題で重要な論点を深く掘り下げて考察した答案を評価する
③問題文から事実を書き写しただけでは何の意味もない
④問いに正面から答えずに自分が暗記してきた論証パターンを吐き出す(書きたいことだけを書く)答案は評価されない
⑤論理上つながらないはずの二つの説をご都合主義的にくっ付けて結論を導いている答案は評価に値しない
等々…。これらは結構当たり前のことですが,制限時間が短い本試験では少なからず陥りがちな罠です。採点実感は,これらの罠にはまった答案を,ケチョンケチョンに批判しています。
ここで感じてほしいのは,「好き勝手に言いやがって,自分で時間内に書いてみろよ」という不満ではなく(いや,不満は言いたくなりますけど笑),これら採点実感が,『本試験でやってはいけないNG集』になっているという点です。
言い換えれば,その真逆をやれば合格答案になるわけです。上記①~⑤のダメだしに対しては,
Ⓐ理由・根拠をしっかり述べたうえで結論を書く
Ⓑその問題で一番大事な論点を見つけ出して深く考察する
Ⓒ問題文から意味のある事実をピックアップして,それが法律要件に該当することを説明(評価)する
Ⓓ設問の問いに正面から答える
Ⓔ既存の説や判例で説明できないなら,自分なりに理由を付けて大前提(規範)を設定して結論を導く努力をする
…という行動をとればいいわけです。このことに気づけば,勉強方法も変わってきますし,答案の書き方も変わってきます。
その意味で,出題趣旨・採点実感は,司法試験の作り手から受験生への公式ネタバレ集なのです。そんな「虎の巻」は他にありません。旧司法試験の時代だってこんなのはなかったはずです。これを使わないという選択肢はないはずです。
まとめると,私の論述対策はこんな感じです。
Ⅰ 日々の勉強をちゃんとやる(基本書を1冊読むこと,判例がどの法律のどの条文のどの文言に関する解釈問題なのかを意識して読むこと等々)
Ⅱ 初見で本試験の過去問を解いてみる。解いた後は,出題趣旨と採点実感を読んで,この問題が何を求めていたのかを研究する
Ⅲ ある程度の数の過去問を解いたら,約10年分ある出題趣旨・採点実感の共通項を研究して,司法試験において普遍的なルール・NG集を発見する。
Ⅳ Ⅱ・Ⅲを踏まえて答練を行う。たまに過去問(既に解いたことがあるやつでもOK)にチャレンジして,ちゃんと書けているかセルフ(ゼミをしていれば相互)チェックする
➡ミスを犯していれば正す。知識・考え方が欠落していれば,Ⅰの過程を繰り返して知識・考え方を定着させる
5 その他,合格(及び将来)に向けて実行していたこと
受験生時代に心がけていたことを雑多に紹介するとこんな感じです。
⑴ 新聞をよく読むこと
我々が受験で頼みにする基本書・参考書には,当然ではありますが,その本の原稿が執筆された時点までの情報しか載っていません。それに対して,新聞には最新の情報がどんどん載ります(その瞬間,その情報も過去のものになるのですが,細かいことは言わないで…笑)。
記事になった事件について友人同士で討論するもよし,「この裁判で負けた側の代理人(弁護人)は今後どうするんだろう?」とか,想像するととても面白いですし,勉強のきっかけになります。トピックに関して根拠条文を調べるのもいいでしょう。
もちろんそれだけでなく,社会の動きにはアンテナを張っておかないといけません。受験生とはいっても社会人の一人だと思いましょう。
⑵ 生活のリズムを整えること
私は,本試験の当日まで,リズムを変えずに生活しました。試験当日はいつも通りに起き,行き先が自習室ではなく試験会場というだけで,他はいつもと変わりません。受験票と筆記用具をもって試験会場入りすれば,もう9割方合格したようなもんだ,と思うことにしていました。それはもちろん,ある程度努力したからこそ持てる自信でしたが。
ただ,メンタルを調整する方法は人それぞれで,私はこうだったという程度です。
⑶ 娯楽や楽しみを取り入れてメリハリをつける
睡魔に襲われたときは,机で突っ伏して寝たり,ニコニコ動画で面白い動画を探して,自習室の自席で「絶対に笑ってはいけない自習室」をひっそりと一人で開催していました。これは眠気を飛ばすのに効果がありました。
また,法科大学院では夏のソフトボール大会があったため,それらのイベントを楽しむことを目標に頑張りました。
これらは,自分で目の前にニンジンをぶら下げて,それに向けて頑張るという手法です。古い手ですが効果はあると思います。人によってはそれがゲームだったり,美容エステだったり,歓楽街通いだったりと千差万別ですが,メリハリをつけて,やるときはやる,休むときは休むというのが,効率のいい勉強又は仕事のコツだと思います。
6 まとめ
以上が私の「合格体験記」です。お役に立つか分かりませんが,少しでも参考になれば幸いです。
以上