司法試験合格体験記 私の司法試験合格法
弁護士 氏森 政利
東京都新宿区西新宿1-25-1
新宿センタービル49階
氏森総合法律事務所
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1 経歴
私は、2001年に東京大学文学部(英語英米文学専攻)を卒業し、会社員として3年間働いた後、2004年に明治大学法科大学院に入学しました。そして、在学中である2006年に初めて受験した旧司法試験に合格し、司法修習を経て2008年に弁護士登録をしました。
2 弁護士を目指したきっかけ
私が弁護士を目指すようになったのは、私が大学4年生の頃(2000年9月)でした。中学生の頃はドラゴンクエストに出てくる「勇者」に憧れ、1999年の7月には世界が破滅するというノストラダムスの大予言を信じていて、自分がその後の世界を救うのだと思っていた、今思えばかなり痛い考えを持った子供でした。東京大学に入学しようと思ったのは、世界を救うためには勉強ができないとダメだろうと思ったからでしたし、大学に入学してからは少林寺拳法部に入部し、今度は身体を鍛え始めたのですが、これもまた同じような動機からでした。父親が自衛官だったこともあり、「国を守る」ということに憧れを持っていたこともあったと思います。
2000年9月に父が病気で亡くなりました。その頃父は自衛官を定年で退官し、教育関係の会社に再就職していたのですが、同年8月に入院した後、1カ月も経たずに亡くなったのです。母は父の死という事実を受け入れられず、泣いてばかりいたので、心配になった私は独り暮らし先のアパートを引き払い、実家に戻って母と同居することにしました。すると母は、毎日深夜に家を抜け出し、パジャマ姿で泣きながら外を徘徊するという行動に出るようになってしまい、私は母を探して、母を背負って連れて帰るということを繰り返していました。母が言うには、父は亡くなる6か月前の健康診断では異常なしと診断されていたとのことであり、また再就職先では残業が多く、土日も出張等で働かされていたという話でした。こうした話であればおそらく法律の問題なのではないか、との見当はつきましたが、当時の私は何の知識も持ち合わせていませんでした。世界を救いたい、などと思って東京大学に進学し、少林寺拳法三段を取得しても、現実には一番身近な存在である母の力にもなれず、無力さに締め付けられるような思いでした。
そのような思いから、ある夜、母を背負って家に帰る途中で、弁護士になりたい、と思ったのです。この日の夜の出来事が、私が法律家を目指すこととなった原点です。この日からもう17年以上経ち、司法試験合格を応援してくれた母は認知症を患い、この日のことはおろか私の名前さえも忘れてしまいましたが、私自身は今でも昨日のことのように覚えています。
3 司法試験合格までの勉強法
弁護士を目指すようになった2000年にはまだロースクールもありませんでしたし、文学部在籍だった私は法律の勉強など全くしたこともありませんでしたので、まず司法試験の予備校に通うことにしました。翌年就職してからは土日に予備校に通いながら勉強を続けましたが、残業が多い仕事だったため平日はほとんど勉強できませんでしたし、土日も仕事の疲れからあまり勉強に集中できず(予備校の近くにパチンコ屋があったことも災いしました。)、予備校に通っていた3年間で、かろうじて上三法(憲法・民法・刑法)の基礎知識を身につけた程度でした。
私が本格的に勉強を始めたのは、明治大学法科大学院(未修者コース)に入学してからです。在学中は平日・休日問わずほとんど朝から晩まで自習室にこもりきりで勉強していましたが、仕事と勉強の両立に苦労していた会社員の頃よりはずっと楽でした。詳しい勉強方法は他の方々の合格体験記に書かれていることとあまり違わないと思いますが、自分なりの要点をまとめると、次の通りです。
・受験勉強の大半を論文試験対策にあてました。弁護士に限らず、法律家は書面で人(依頼者、事件の相手方、裁判官、etc)を説得する仕事ですので、文章を書くことが苦手なようでは司法試験には合格できません。
・論文試験対策はロースクール1年生の頃から始めていました。数多く問題をこなすため、自習では答案構成(パラグラフを接続詞と矢印でつなげただけのもの)のみを行い、テストやゼミ(後述)の時だけ答案を書いていました。
・司法試験の過去問をクラスメイトと時間を決めて解き、解いた答案を皆で回し読みをして、各答案の良い点、悪い点を(自分の答案の出来は棚に上げて)批評し合うというゼミを毎週1回やっていましたが、弁護士の先生が毎週採点・講評していただいたこともあり、このゼミは本当に役に立ちました。この先生には今でも感謝しております。
・司法試験受験9カ月前頃からは、いわゆる司法試験の「再現答案集」を各予備校から買い集め、「時間を決めて」過去問を解いた後で、各「再現答案集」と自分の答案を比較することで、自分の答案を合格者の答案に近づけるよう調整するという勉強を繰り返しました。ポイントは「時間を決めて」、つまり再現答案の作成者と同じ条件で解くということです。
・ロースクールの授業は、特に実務家教員の先生の授業が、受験対策という観点からは、役に立ちました。ある弁護士の先生は「まず依頼者が何を求めているのかを知るべきだ」ということを仰っていましたが、司法試験の論文試験においても通じるところがあると思います。
・択一試験対策は択一試験の3か月前から始めました。「肢別本」という問題集が各司法試験予備校から出されていると思いますが、当時の司法試験は5つの肢から正解を1つ(又は2つ)選べ、という問題でしたので、「肢別本」を最初から最後まで解き、正答率が80%を超えれば(5つの肢のうち4つがわかる状態)、理論上択一試験は満点が取れるはずだと思い、正答率80%を目標として「肢別本」を繰り返し勉強しました。
・司法試験に合格する方法を知るためには、司法試験がどのような観点から採点されるのかを押さえておく必要があります。司法試験法第3条第4項に「司法試験においては、その受験者が裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を備えているかどうかを適確に評価するため、知識を有するかどうかの判定に偏することなく、法律に関する理論的かつ実践的な理解力、思考力、判断力等の判定に意を用いなければならない。」とあるのはとても重要なことです。
・モチベーションの維持の観点から、法律家の出てくる映画や読み物は良く読んでいました。映画だと「レインメーカー」(マッド・デイモンさん主演)、漫画だと「カバチタレ!」(原作:田島隆さん)、小説だと和久俊三さん(弁護士)の本を読みました。
4 終わりに
私は司法試験は1度しか受験しませんでしたが、それでも、弁護士を志してから2008年に弁護士登録をするまで、実に8年もの歳月を要しました。合格までの長い時間の中で自分を支え、モチベーションを維持することができたのは、「何故自分が弁護士になりたいのか」という原点が揺らがなかったためであり、そのことが司法試験に合格できた最大の理由だと思います。これをお読みになった方が司法試験を目指すことがあるようでしたら、まず「自分が法律家を目指す理由」をノート1枚に箇条書きで書いてみてください。そしてそれをクリアファイルに入れて机の下に入れておき、勉強に疲れたら見るのです。たったこれだけで、受験中に「原点」を見失うことはなくなります(これを私はいまだに保管してあります)。
1999年に世界は滅亡しませんでしたので、「世界を救う」という中学生の頃の夢は実現できませんでしたが、少しでも依頼者や身近な家族・友人の力になれているか、ということをいつも心に留めて、弁護士をやっています。
以上