BGM:明治大学校歌(明治大学グリークラブ、明治大学応援団吹奏楽部)PLAY PAUSE ▲POPUP 

Home > 司法試験合格体験記・予備試験合格体験記 > 門馬 憲吾

合格体験記 私の司法試験合格法

門馬 憲吾

 

1 簡単な経歴、法曹志望の動機

 2008年 中央大学附属卒業
 2012年 中央大学経済学部卒業、公認会計士試験合格
 2017年 新日本有限責任監査法人退社
 2020年 早稲田大学法務研究科卒業、司法試験合格

 
 大学中は公認会計士試験の勉強をしていました。きっかけは、友人が会計士試験の勉強をしていたこと、並以下の大学生活を送っていることを自負していたため、就活でも優良企業から内定はもらえないだろうな、と考えたからです。ただ、当時から学問としての法学に興味がありました。私は経済学部だったのですが、他学部履修で憲法の講義をとり、法学部生に交じって芦部を読んだりしていました。
 大学を卒業した年に合格し、監査法人で社会人生活を開始しました。東芝事件の影響もあり非常に忙しかったのですが、会計および監査という分野にいま一つ熱心になれない自分がいました。知識を提供することに魅力は感じていたものの、この分野を突き詰められる気がしなかったのです。対して、法学への興味は引き続き持っていました。といっても法廷物の小説や映画を好んで見ていたくらいではありますが。
 当時は、なぜ会計に興味が持てず、法学に興味があるのだろうとよく考えました。振り返って思うのは、実務慣行を集約した会計基準は帰納的であるのに対して、法律は原理原則からの演繹的な発想です。後者の体系の方が性格的にしっくりきたのだと思います。
 結局のところ、このまま会計士として仕事を続けても、突き詰めたい分野は見つからないとの整理が付いたので法科大学院への進学を決めました。志望動機としてキャリアと一貫したことを言いたいところではありますが、実情はそんなところです。ただ、法学の学習を通して、この分野であれば生涯を通じて学んでいけることを確信し、自分の考えは間違っていなかったのも、また事実ではあります。

 

2 勉強方法

 司法試験では、法解釈と事務処理能力が問われます。これらについて意識したことを述べます。
 
(1)法解釈について

 問題文の事実を出発点に、条文を大事にすることを心掛けました。
 まずは事実を出発点にすることです。実社会の紛争も何らかの事件があり法的な問題が生じます。司法試験は実務家の選抜試験ですから、同様に事実を出発点にしなければなりません。
 次に、条文の重要性です。試験ではいわゆる論点を問われることになりますが、論点も条文を肝に据えなければなりません。必ず条文のどの文言が問題となっているのかを示し、私はこの文言を解釈しています、という姿勢を見せることが重要だと思います。条文は一般的・抽象的に規定せざるを得ないため、自分なりに法文を解釈して規範を定立する必要があります。規範定立の指針は、「実質的正当性」と「言葉の中心的意味からの距離」です。これは、法律学小辞典の「法の解釈」からの抜粋ではありますが、極めて重要な指針だと思います。「実質的正当性」とは、法体系の原理原則や、条文の趣旨に照らして正当と言えるか、ということです。「言葉の中心的意味からの距離」とは、条文の素直な文理解釈です。法律の機能のひとつに国民の予測可能性を担保することがあるわけですから、あまりに条文の文理から離れた解釈はできないことになります。勉強が進むとついつい文理解釈をおざなりにしてしまうことがありますが、やはり法文の意味は重いです。
 まとめると、事実を出発点に、問題となる条文の文言を引用し、原理原則論、趣旨、文理を意識して規範を定立する。あとは問題文の事実を可能な限り引用・評価して規範に当てはめる。このような作業を繰り返すことで法解釈の能力もついてくると思います。

(2)事務処理能力について

 試験は2時間のうちに答案を完成させる必要がありわけですから、事務処理能力も重要になります。事務処理能力を伸ばす方法は、徹底的な問題演習と完璧な暗記だと思います。
 まず、問題演習について、最良の教材は司法試験の過去問です。時間が許す限り何回でも書くべきだと思います。過去問を解いた際には採点実感と出題の趣旨を熟読し、重要な箇所はノートにまとめていました。次に問題を解く際は10分程度でノートを見返して、答案作成上の注意点を喚起していました。一度ノートを見返したくらいでは、喚起したはずの注意点は何処へ、いつも通りの思考で答案を書いてしまいます。自習の緩慢な状況でもこのような体たらくなのですから、司法試験本番では無意識でも意識できる程度に習慣となっている必要があります。そのため、問題演習→採点実感の読み込み・まとめ→ノートの見返し→問題演習という作業をひたすら繰り返していました。
 次に暗記です。司法試験では誰もが知っている典型論点も問われることがあり、これを書き落とさないことが非常に重要です。暗記はネガティブなイメージもありますが、基本的な定義と論証は機械的に吐き出せるようにしておく必要があります。暗記の方法は、単語カードを使用していました。スマホで暗記カードを作成することが可能ですが、紙がおすすめです。紙の方がインクのにじみや端の折れ曲がり、汚れなど記憶喚起のトリガーが圧倒的に多いからです。
 まとめると、問題演習の繰り返しと徹底した暗記で事務処理能力を高め、1文字でも多く答案を書けるようにすることが大切だと思います。

(3)おわりに

 好きな言葉にヴォネガットの「If This Isn’t Nice, What Is?」というのがあります。「これで駄目なら、どうしろって?」という意味です。勉強法は色々とありますが、最終的に重要なのは、本番直前まで努力をし続け「これで駄目なら、どうしろって?」の境地まで達することだと思います。そのような自信が本番で活きてきます。落ち着いた状態で試験を受けることができ、ここまでやった自分がわからないのならば周囲もわからないだろうといった諦めがつくからです。
 監査法人やロースクールを通じて、頭の作りが違う天才もいるのだな、と思いました。しかしその割合は3%程度です。97%の人間の総合的な能力は同じだと思います。私も97%側の人間で、極めて平凡な能力しか持ち合わせていません。だからこそ愚直に努力しなければなりません。ここでいう努力とは、単に机に長時間向かっていることではなく、自分が嫌なことをやり続けることだと思います。私の場合は問題演習と暗記でした。何回解いても間違えたり、何回読んでも覚えられず、自信を失い苦痛が伴う作業です。しかし平凡な人間だからこそ間違えるのも当たり前だし、覚えられないのも当然です。むしろ自分は馬鹿なのだから何回でも繰り返すのは仕方のないことだと言い聞かせ、愚直に続けることが大切だと思います。

 

3 勉強のモチベーションを維持する方法

 勉強のモチベーション維持のために「夜と霧」や「自省録」といった自己啓発の古典を繰り返し読んでいました。特に「夜と霧」では気付かされることが多かったです。内容は、心理学者がアウシュヴィッツでの経験を分析したものです。
 興味深かったのは、司法試験受験生は収容所の人間と同じ立場であるのではないか、と思ったことです。著者は収容所の人間を「無期限の暫定的状態」と定義しました。「無期限」とは、いつ収容所から解放されるかわからず、「暫定的状態」とは、看守の気持ち一つで生命が左右されるという極限状態です。もちろん次元は違いますが、司法試験受験生もいつ合格するかわからず、そもそも合格するかもわからないという意味においては「無期限の暫定的状態」といえるのではないでしょうか。
 「無期限の暫定的状態」で自分を見失うか否かの分水嶺は、今現在の苦しみを認識し、未来に目的をもって生きることができるかどうかです。収容所での人間の真価は、収容所生活で発揮されていました。収容所を出た後ではありません。自分を見失うことのなかった収容者は、過酷な状況で今現在の苦しみを認識し、目的を持って生活していたようです。逆に、今現在の苦しみを受け止めず、過去への逃避や未来の僥倖を期待した者は、自分を見失い破綻していったと言います。
 私も、特にコロナで延期になった期間は知り合いのいない民間の自習室に通い、誰とも会話をしない日々が続きました。30歳にもなって友人は社会で活躍し、子供を養うといった責任を果たしている中、自分は独りでなにをしているのだろう、とよく考えました。公園のベンチで1日虚ろに過ごしたこともあります。しかし、法曹を志した自分を見失わないよう、こうやって苦しむことにも意味があり必ず合格をする、という一点は常に言い聞かせていました。
 長い受験生活でモチベーションに揺らぎが生じることは誰しもが経験します。その際は、こうやって苦しみを感じることには必ず意味があると思い、法曹を志した初心を思い出し、将来の目標を考えてみてください。そうすれば、自分を見失わずに合格を勝ち取ることができると思います。

以 上

 

司法試験合格体験記・予備試験合格体験記