合格体験記 私の司法試験合格法
吉田 大気
平成24年3月 明治大学法学部法律学科卒業
平成26年3月 早稲田大学法科大学院(既修)修了
同年9月 司法試験合格
平成27年12月 弁護士登録
1 はじめに
私は,高校生の時に「世界がもし100人の村だったら」という本を読み,身近にいる困っている人,悲しみや苦しみの中にいる人の力になりたいという思いをもちました。そこで,その思いを体現できる弁護士を目指しました。
私は,幼い頃から英才教育を受けていたわけでもなく,地方の公立高校出身のごく普通の人間です。この体験記を読むことで,自分にあった学修方法に則って努力すれば司法試験に合格できるということを感じていただけたら幸いです。
2 学修方法総論
⑴ 条文
周りの受験者が、過去問の問題集をやったほうがよいといっているにも関わらず、あまり過去問を重視して勉強していませんでした。また、短答式試験の過去問を、時間をはかって解くことをせず、目標点数を考えずにだらだらと勉強し、過去問を勉強した気になっていました。
⑵ 過去問・合格答案
私は,過去問・合格答案の分析なくして,試験の合格はないと考えています。過去問・合格答案を分析すれば自分が到達すべき点,問題作成者の要求レベルが分かってきます。そのうえでそれらに沿った学修をしていけば良いのです。効率よく成果をあげるにはゴールから逆算することが重要ですが,そのゴールがまさに過去問・合格答案だと思います。
⑶ 工夫したこと
学修にあたっては,基本書,予備校本,問題演習本等様々な本を読む必要があります。私は,基本書等を漫然と読み進めることを防止する狙いから,条文⇨青マーカー,論点・問題提起⇨緑マーカー,判例⇨ピンクマーカー,重要箇所⇨黄色マーカー,最重要箇所⇨黄色マーカー+赤のアンダーラインをそれぞれ引きながら読み進めました。さらに,暗記すべき事項はノートに写経して,正確な表現ができるまで暗記しました。
また,基本書等を読んだり,過去問を分析していく中で,重要・頻出だと考えた事項については,それぞれ一元化し,条文判例本やノートにまとめました。
⑷ スケジュール管理
私はスケジュール管理を徹底し,起床時間,就寝時間,食事の時間等をそれぞれ毎日同じ時間に設定し,1週間の初めに学修予定を細かく組みました。司法試験1年前からは自分で立てたスケジュールをほとんど崩さずに,5:30起床,6:30自習室到着,21:30帰宅,23:00就寝という生活をしていました。
徹底したスケジュール管理によって,体調を崩すこともなく万全の状態で日々学修に励むことができました。
3 法科大学院の過ごし方
⑴ 授業について
授業の予習は必要最低限に行い,復習をしっかり行いました。
法科大学院の授業は,学術的に優れていても,高度に難解であり,却って基礎を見失いかねないものもありました。もちろん,試験勉強のみでは,立派な法律家にはなれないと思いますが,そもそも,司法試験に合格しなければ,実務家にはなれません。そのため,司法試験を意識したアウトプットは定期的にするべきであると思います。
法科大学院の授業と司法試験対策は共通する部分はありますが,共通しない部分も多いので,司法試験対策を怠ってはいけないと思います。司法試験対策については,5を参照してください。
⑵ ゼミについて
私は,司法試験の過去問を解いて,添削し合うというゼミを組みました。試験内容についてはあまり突っ込まず,答案の読みやすさやわかりやすさの追求に焦点を置いていたように思います。ゼミを行うにあたっては,ダラダラとしないように開始時間と終了時間を明確に設定していました。
結果的に,司法試験合格のためにゼミの実施は必要不可欠ではなかったと思いますが,試験に合格する方向性をつかむ,受験生における自分の位置づけを把握するという目的で有用だったと思います。
4 司法試験短答式の勉強方法
まずは,肢別本を9割以上正答できるようになるまで解きました。その後,過去問,予備校の答練問題を解きました。問題を解く際には,六法をすぐに参照できるようにし,間違えた問題とその問題に関連する条文にチェックをつけました。
間違えた問題にチェックをつけることで知識の穴を確実に埋めることができましたし,関連条文にチェックをつけることで六法を見ればどの条文に弱いのかが一目でわかるようになりました。
5 司法試験論文式の勉強方法
過去問を解き,出題の趣旨,採点実感及び優秀答案を読み込むことを重点的に行いました。各科目につき最低5年間分を2回以上は解いたと思います。
私は,出題の趣旨・採点実感をまとめたファイルと,優秀答案のうち自分とスタイルが似ているものをまとめたファイルを作成し,合格答案のイメージを身につけるために,毎日目を通すようにしていました。
その上で,定評のある市販の演習書を解きましたが,対策の中心に据えたのはあくまで過去問でした。
6 試験直前及び試験当日の過ごし方について
司法試験1か月前からは,司法試験だけに気持ちを向けて,家族・親友と連絡を取る時以外はほとんど人と話さなかった気がします。
試験当日は,好きな音楽を聞き,酸素補給をしながら,一元化したノートを見直していました。
7 この場をお借りして
本格的に法を学び始めた大学3年生の夏から司法試験までの日々は,失敗・挫折の連続でした。劣等感・孤独感を大いに感じる場面も多く,決して楽な日々ではなかったです。しかし,自分一人では,何もできず,多くの人々に支えられ,生かされていることに気づけた今,たくさんの失敗・挫折,劣等感・孤独感は,無駄なものではなく絶対に必要なものであったと感じています。私の司法試験合格を知り,泣いて喜んでくれた家族の姿を見たら,たくさんの失敗等は全て良き思い出に変わりました。家族・友人・先輩・先生,自分を支えてくれた全ての方への感謝の気持ちを忘れることなく,謙虚で誠実な法律家になる努力をしていきたいと思います。
司法試験は,自分にあった学修方法をとって,諦めずに淡々と努力を続ければ,合格することができる試験であると思います。これから受験される方の合格を心より願っています。
8 使用した本等の紹介
⑴ 憲法
『憲法』芦部信喜
→ベースになる本。
『憲法の急所』木村草太
→答案例はあまり使えないような気がしたが,トレンドの問題の演習ができる。芦部憲法が答案化できたと思う。解説も良い。
『憲法ガール』大島義則
→必須。答案の型が身につけられる。物語が面白いので,息抜きにもなる。
『憲法上の権利の作法』小山剛
→難しいが,自由権と社会権の区別は分かりやすかった気がする。三段階審査自体は,使わないほうがよさそう。
『憲法判例百選』
『わかりやすい憲法』青柳幸一
→判例を,どのように答案に活かせば良いのかわかった。試験委員の好む答案がわかる。
☆他の科目に比べて特に過去問・優秀答案分析が大切!一つの事実について,いろんな評価をしてみる。
⑵ 行政法
『行政法概説1』宇賀克哉
『行政法概説2』宇賀克哉
→必要充分な情報量。特に2は重宝した。判例と関連づけて書かれており,司法試験向けだと思う。
『事例研究行政法』曽和,金子ほか
→必須。コラムまでしっかり読んだ。3部の問題には手をつけず。
『行政判例ノート』橋本博之
→論文に必要な判例知識が身に付く。
『重要判例とともに読み解く個別行政法』亘理,北村ほか
→未知の個別法に対処する能力がついた。ただ,条文があまりのっていないので,自分で入手。
『趣旨規範』辰巳
→一元化本として使用。
☆行訴法,行手法をしっかりと理解し,読み込む。個別法は,面倒がらずに読む。裁量に飛びつかない!
⑶ 民法
『債権総論』中田裕康
→独自説がほとんどなく,読み進めやすい。一文が短く,暗記しやすい。
『基本講義債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得』潮見佳男
→不当利得の箇所以外は良い。
『基本講義債権各論Ⅱ 不法行為法』潮見佳男
→十分な情報量。司法試験はこれで足りる。
『民法の基礎1 総則』佐久間毅
『民法の基礎2 物権』佐久間毅
『担保物権法』松井宏興
『家族法実務講義』梶村,岩志ほか
『民法判例百選』
『情報シート』伊藤塾
→一元化本として使用。
『完全講義民事裁判実務の基礎(上)』大島眞一
→最高の本。類型別が飛ばしている説明についても,しっかり書かれている。行間を読む必要がない。必須。
『事例から民法を考える(法学教室連載時のもの)』佐久間ほか
→程よい難しさ。民法総合事例演習は,司法試験レベルを優に超えているので,こちらを使用。
『基本事例で考える民法演習(法セミ連載時のもの)』池田清治
→難しい問題だが,基礎基本を確実なものにできる。
⑷ 商法
『リーガルクエスト会社法』伊藤,大杉ほか
→これで十分。ただ,たまに江頭会社法を参照。
『事例で考える会社法』伊藤,大杉ほか
→必要十分な演習量が積める。同じような問題が過去の司法試験に出ている。
『会社法判例百選』
→解説はほとんど読まず。
『条文判例本』辰巳
→一元化本として使用。
⑸ 民事訴訟法
『基礎からわかる民事訴訟法』和田吉弘
→題名通り民事訴訟法を基礎からしっかり理解することができる。ただ,薄すぎる論述があるので,時々重点講義を参照。
『解析民事訴訟』藤田広美
→旧司問題を徹底的に潰すために使用。
『民事訴訟法判例百選』
→事案,判旨はもちろん,解説も含め,しっかり読み込んだ。
『ロースクール民事訴訟法』三木,山本ほか
→本番で出そうなところをを2〜3周。
『基礎演習民事訴訟法』長谷部,笠井ほか
→つまみ食い程度に使用。
『条文判例本』辰巳
→一元化本として使用。
⑹ 刑法
『刑法総論』呉明植
→総論はこれで十分。
『刑法各論』呉明植
『刑法各論』西田典之
『最新重要判例250刑法』前田雅英
『刑法事例演習教材』
→全て答案を作った。事実評価については,何度も加筆修正した。
☆学説に深入りしないことが大切。事実評価の仕方については,上位合格答案を参考にする。
⑺ 刑事訴訟法
『リーガルクエスト刑事訴訟法』
→必要充分な情報量。文が読みやすい。
『事例演習刑事訴訟法』古江頼隆
→必須。ただし,リークエの知識が定着してからの方が,有益。
『刑事訴訟法判例百選』
『刑事訴訟法の争点(3版)』大澤裕論文
→伝聞の理解はこれで十分。
『法学教室 演習』小木曽綾
☆具体的なイメージを持ちながら勉強する。論証がダメだと,そこでかなり差がつく。事実の羅列にならないように注意する。被疑事実が何なのかを意識する。捜査と証拠で書く分量を決めておく。
⑻ 倒産法
『倒産法概説』山本,笠井ほか
→わかりやすい。もっとも,『破産・再生』藤田広美のほうがよりわかりやすいし,条文や制度趣旨から書かれていると思う。
『ロースクール倒産法』三木,山本
→6〜7周した。先輩にもらったレジュメを授業や問題集を使って,加筆修正。
『ロースクールの授業レジュメ』Y教授
『倒産法演習ノート』山本,岡ほか
→2〜3周した。やり込む必要はないと思うが,目は通しておくべき。
『倒産判例百選』
『趣旨規範』辰巳
→一元化本として使用。
☆条文が大切。電車移動中は,ロースクールの授業音声を聞きながら,条文素読した。破産と民再の違いを意識することも重要。
(H28.11.21執筆)