司法試験合格体験記
合格体験記でコツをつかもう-私の合格体験記活用方法
N・Y
1977年(昭和52年) 旧司法試験合格
1978年(昭和53年) 明治大学法学部卒業
第1 40年前(1977年)に記載した合格体験記
1 はじめに
私は、受験中、たぶん自分は一生司法試験には受からないのではないかという思いにしばしば駆られた。なぜなら、合格に不可欠といわれる集中力に欠けていたからである。つまり、本を読んでいても始終他の事を考えるクセがあったのである。例えば、基本書の41頁を読んでいて、「41」という字が眼に入ると、「1941年にはどんなことがあったかなあ。」などと、とりとめのないことを考えてしまうのであった。
しかし、受験する以上、早くラクして受かりたいとも思っていた。そして早くラクに受かるには何か魔法のような勉強法があり、その方法を探そうと考えた。そこで5年分ほどの『受験新報』その他、合格体験記の記載がされている多くの書籍を買い込み、もっぱら合格体験記のみを読み漁った。少なくとも1日1~2時間は合格体験記を読んだ(法律書を読むよりはるかに面白かった。)。そのようなことを数か月間行ったから、各書籍5~6回は繰り返して読んだはずである。そして、役に立ちそうな部分は傍線を引き、ノートに、本の読み方、サブノートの作り方、参考書の利用法、論文の書き方などと分類して記入していった。また、司試合格者の話を聞き、役に立ちそうな部分もそのノートに記入していった。その内容・方法には共通するものもあったが、異なるものもあった。また、成功した方法のみならず、何度も失敗した体験の中で、どのような方法が失敗の原因だったのか、何がネックになっていたのかということが、その合格者の半生と共に述べられているものも多く、大変有益であった。
以上のようなことを行ううち、観念的には司法試験のコツというようなものがわかり、自分に合う方法を、自分自身を実験台として実行した。その結果、なんとか大学在学中に合格できたのである。そこで、以下、その自分なりのコツといったものを述べてみたい。
2 具体的方法 -合格体験記に基づく方法
司法試験に合格するには、合格するのに必要な程度の体力•気力•学力が必要である。そこで、必要な体力•気力•学力をつけるために、私は以下のような対策をたてて実行した。
⑴ 体力-適度な体操と睡眠
⑵ 気力-意欲の増進維持
合格体験記では、気力を維持するために役に立ったという一般書籍がいろいろ挙げられていたが、私は、その中でも、デール・カーネギーの「道は開ける」が役に立った。この本には、人生で出会う様々な悩みにどのように対処したかという経験談が多角的に述べられており、司法試験受験ということ以外にも大変役に立った。
また、合格体験記では、余暇の過ごし方についてもいろいろ述べられていた。これは各人の個性に応じて様々なものがあるが、私は余暇にも、なるべく司法試験に対する意欲を増すように過ごすことができればと考えた。すなわち、私は勉強にあきると、小説を読んだり、音楽を聴いたりしたのであるが、小説•音楽にも、受験意欲を増すものと減少するようなものがあり、できうれば意欲を増すようなものを読んだり聴くようにしようとした。私は、『国盗り物語』など司馬遼太郎の小説が好きで、よく読んでいたが、学習意欲高揚には役に立ったような気がする。すなわち、私は、司法試験に受かるのも国を盗るのも、戦略、戦術という面では共通したものがあり、もし自分が斉藤道三•織田信長だったら、どのようにして試験を攻略するだろうかと考え、自分が軍師になったつもりで、作戦を練ったのである。このように考えると、灰色で非ロマン的といわれる受験生活も、ロマンあふれた雄大なドラマに感じられ、勉強意欲が増大したこともあった。恋愛小説や熱血青春小説も好きではあったが、受験生活を空しく感じさせることが多く、できるだけ避けるようにはしたが、時には、読み耽ってしまうこともあった。
⑶ 気力-意欲の増進維持
合格体験記では、気力を維持するために役に立ったという一般書籍がいろいろ挙げられていたが、私は、その中でも、デール・カーネギーの「道は開ける」が役に立った。この本には、人生で出会う様々な悩みにどのように対処したかという経験談が多角的に述べられており、司法試験受験ということ以外にも大変役に立った。
また、合格体験記では、余暇の過ごし方についてもいろいろ述べられていた。これは各人の個性に応じて様々なものがあるが、私は余暇にも、なるべく司法試験に対する意欲を増すように過ごすことができればと考えた。すなわち、私は勉強にあきると、小説を読んだり、音楽を聴いたりしたのであるが、小説•音楽にも、受験意欲を増すものと減少するようなものがあり、できうれば意欲を増すようなものを読んだり聴くようにしようとした。私は、『国盗り物語』など司馬遼太郎の小説が好きで、よく読んでいたが、学習意欲高揚には役に立ったような気がする。すなわち、私は、司法試験に受かるのも国を盗るのも、戦略、戦術という面では共通したものがあり、もし自分が斉藤道三•織田信長だったら、どのようにして試験を攻略するだろうかと考え、自分が軍師になったつもりで、作戦を練ったのである。このように考えると、灰色で非ロマン的といわれる受験生活も、ロマンあふれた雄大なドラマに感じられ、勉強意欲が増大したこともあった。恋愛小説や熱血青春小説も好きではあったが、受験生活を空しく感じさせることが多く、できるだけ避けるようにはしたが、時には、読み耽ってしまうこともあった。
⑷ 学力-計画と実践
そこで、まず、計画のたて方について述べてみたい。
まず、本試験までに勉強できる日数を計算する。例えば、今日が10月10日ならば、来年の択一試験日(5月第2日曜日)までは、約210日ある。しかし、週1日は休息日とし、また、正月も何日か休み、その他かぜをひいて勉強できない日もあるから、それらを差し引くと、たぶん160日前後となろう。そして、択一対策日数を60日とすると、論文対策に使える実質的な日数は.100日位になってしまう。それを7科目でふり分けるわけであるが、自分の弱点科目に多くを費やす必要がある。結局、I科目平均15日程度である。そして、この期間内に論文合格水準に各科目についての学力を引き上げる必要があることになる。そこで、以下、私のとった具体的な勉強方法について述べてみる。
① 定義の記憶-定義の記憶確認は直前に
まず、答案練習会に備えてある程度の定義の記憶はする。しかし、定義は、いったん覚えても時間の経過に伴い記憶の質が低下する。そして、定義は論文試験当日に正確に覚えていることが不可欠であるから、本番の試験当日そのような状態に持って行く必要がある。そこで、日頃の勉強で単語力-ドに定義を書き込み、答案練習会に備えてこれを利用し記憶する。しかし、この段階で正確な記憶を維持しておくまでの必要性はない。上記カードを利用し、試験の直前に定義を確認することにし、そのため、何分で定義を再確認できるか、前もって計っておき、当日の朝あるいは前日の夜などに定義再確認の時間をとり、記憶喚起した。
② 基礎的知識の取得-基本書の読み方
1回目、2回目の読み方は、基本的には、次のようなものである。
まず、基本書を読むときは、鉛筆で、書き込みや傍線を引きながら読むことにする。この際、決して、色鉛筆やペンなど後で消すことが困難な用具は使わない(その理由は後で述べる。)。
そして、読んでいて意味の分からない部分に出会ったら、その言葉や文章の横に「意味不明?」などと書き入れる。形式的な意味が分かっても、納得できない、あるいは、常識に反すると思った部分には、「納得できない」「常識に反する」などと書き入れる。理由が分からない場合は「理由不明」などと記載する。1回目から、理解しようと努めることはせず、その場で何度も読み返すようなこともせず、先に進んでいく。とにかくその方法で、1冊あるいは、1単元を読み終える。この段階では、自分が分からないのは、自分の頭が悪いからだとは思わないようにする。むしろ、著者の書き方が悪いのではないか、あるいは、間違っているのではないかというような態度でいる方がよい(もとより謙虚さは必要であるが。自分の頭が悪いという考えは、分からないこと無理に理解したことにしてしまうことにつながるなど弊害がある。)。
2回目は、本を開ける前に、まず、この本は大きく分けていくつに分かれているのか1分間くらい考えてみる(例えば、刑法総論の本であれば、大きく目次はいくつに分かれているのか、2つか、3つか4つかなど。)。そして、この段階でさっぱり分からなくても、これを検証する意味で目次をみてみる。次に、なぜ、このように目次は分かれているのかを考えてみる(例えば、刑法総論の本が、犯罪論と刑罰論に分かれている場合には、なぜ、犯罪論と刑罰論に分かれているのか、犯罪論が構成要件、違法、責任に分かれているのであれば、それはなぜなのかなど)。理由が分からなければ、目次に、「このように分けた意味不明?」などと記載する。この理由は、基本書の総論部分などに書いてある場合が多いが、当初はそれに気づかずに読み飛ばしてしまうことが多い。しかし、そのような問題意識を持つと、基本書の中に書かれていることに気づくことが多い。また、このような疑問が先行していると、それなりに難解な本でもおもしろく読めるものである。
そして、目次のどの部分を読んでいるのかを常に意識しながら、内容をじっくり読んでみる。すると、1回目に分からなかったことが、分かってくることがある。また、分からない原因が分かってくることがある。言葉の意味が分からない場合は、法律学小辞典等で調べてもよい。できるだけ六法の条文にあたるとよい。そして、内容や理屈が分からない点は、友人や先輩に聞いてもよい。そのような作業を行っていくと、1回目に読んでいたときに分からなかった点も分かって腑に落ちるという点も多い。その一方、1回目は分かったつもりでいた部分でも実はよく分かっていなかったことに気づく場合もある。「意味不明?」「納得できない」「常識に反する」などという鉛筆の記載のうち、疑問が解消した点は、消してもよいし、横に理解した意味や理由を鉛筆で書き入れていくとよい。なお、新しく分からなくなった点、疑問点は、鉛筆で「?」をつけていく(これらの作業を繰り返し行うために、いつでも消せる鉛筆を利用するわけである。)。
基本書の読み込みの3回目くらいからは次のような方法をとる。
まず、過去20年分の司法試験の論文問題の提出年度を目次の下段に、問題の要旨を本文の余白部分に書き入れる。すると、どの分野からどのような切り口で問題が提出されているのかが分かる。
次に、目次と条文を見て、できるだけ自分なりに内容を予測し、それから、それを検証する意味で、基本書の内容を読む。本の目次のみでは、大雑把すぎるので、基本書の上の余白に項目見出しをつけた。そして、その項目を見て、自分が著者だったらどう書くか、ということを条文を参照に数分間考えてから、内容を読む。
この方法は次のような利点がある。第1に、自分が基本書を創造するのと同様な作業を行うことになり、正確な知識が取得できる、第2に、目次を使うことから、体系的な理解ができる、第3に、著者の思考パターンが身に付き、わからない問題にあたっても、自分なりの論述ができるようになる、第4に、直前に、短期間で、基本書を再確認できる。
なお、3回目くらいからは、適宜、赤鉛筆、青鉛筆を使い、重要な問題提起部分を赤枠で囲い、結論部分は青の傍線を引き、理由付けには赤の傍線を引くなど、自分なりに色分けをしていった。この段階では、ある程度、大切なところが分かってくるので、赤鉛筆、青鉛筆を使っても問題はないが、当初から消すことが困難な色鉛筆、ペンを使って書き込んでいると、色線は増える一方で、色線を引いて整理するという意味がなくなってしまう(赤線だらけになってしまう。)ので注意すべきである。
以上のような方法をとることにより、比較的短期間で基礎的知識を取得することができた。なお、司法試験に合格した時点でも、各科目、数十箇所、分からない点は残っていた(すべての問題について完璧に理解することは極めて困難であり、司法試験合格という観点からは必要ないと思われる。)。
③ 論点整理-実戦的なサブノー卜の作成方法
まず、司法試験に合格するためにはどの範囲の「論点」を対象として整理すればよいのかという問題である。私は『受験新報』の6月号の5年分の論点を対象とすれば十分であると思う。これは、多くの合格者が体験記で述べているという経験則的な見地からの結論である。
次に、論点をどのように「整理」したらよいのかという問題である。私は、基本書に書かれている論点については、理由付け等を基本書に書き込み補充する(後記答案練習会の最高得点答案に書かれていた理由などから補充することが多かった。)という形で整理した。そして、基本書に書かれていない論点については、サブノートを作ることにした。なぜなら、短期間で、基本書に書かれていることについて、新たにサブノートすることは、時間.労力の無駄であり、基本書に補充する方が合理的だからである。ただ、前述したように、私の場合、項目見出しをふってあることから、基本書即サブノートという感じであった。『受験新報』の論点のうち3分の2以上は、基本書でふれられていたから、サブノート化したのは3分の1弱である。
では、どのような形式のサブノートが実戦的なのであろうか。まず、形式面から述べる。司法試験の論文解答用紙は8枚であるが、私は6枚を限度として書くことにした。そして、論文問題には通常2つ以上の論点がある。それなら、1つの論点については3枚以上の論述はできない。解答用紙は1枚10行であり、私は1行25字書く。故に、解答用紙3枚とは、750字ということになる。そこで、サブノ—トの長さも必然的に750字以内でなければならない。それ以上長いものを作っても実戦には役立たないわけである。
次に、実質面について述べる。まず、何の為にサブノ—トを作るのか、という点を考える必要がある。それは、論文直前に見直して、問題の所在•自説•理由を確認するためである。すなわち、直前に見直しやすいものでなければならない。
ではいったい、どのようなものが直前に見直すのに便利なのであろうか。私はバインダー式のノート1枚に、原則•問題の所在.自説•理由の4つに項目を分ける形式をとった。そして、直前には、この項目のみを見て、その内容を考え、内容が脳裏に浮かんだ場合は先に進み、あやふやな場合には、内容を読むことにした。このようにして、直前にすべての論点を短期間で確認することができた。
一方、私は、サブノートには学説判例の状況を原則として書かないことにし、本番の論文でも判例がどの立場を取るというようなことは書かなかった。
では、なぜ判例学説の状況を書かないことにしたのか。それは次のような理由に基づく。
第1に、学説•判例の状況を正確に理解記憶するには多大の労力を必要とする。このような労力は、まず、論点がなぜ生じるのか(意見がどういう点で対立し、自説の理由はなにか)という点の理解に使い、その他の労力は、自分の弱点を平均水準まで引き上げるのに使った方がよいと考えたからである。1科目の準備期間が平均15日しかないのだから、なおさらそのような余裕もなかったのである(参考書を多数使用しすぎることは、弊害が多い。)。第2に、学説判例を広く理解•記憶しようとすると、どうしてもその知識を答案に表わしたくなり、学説羅列式の答案になりやすく、論文の説得力を減少させると考えたからである。それなら、自説と自説の理由付けのみを正確に論じた方が、説得力があると思ったからである。第3に、もし学説判例の状況を誤って論じてしまうと積極ミスになってしまうからである。第4に、学説•判例を正確に論じようとすると、どうしても量が多くなってしまい、読み手(試験委員)の負担も多くなり、また、書き手としても時間内に論述しえなくなる恐れがあるからである。以上の理由から、私はサブノートにも、本番の論文でも、自説とその理由付けを書くことに精力を注いだ。
しかし、ここで注意すべきことは、問題提起の部分を詳しく論じ、利益対立についても言及し、また、自説の理由付けの中で他説への批判も論じる必要がある点である。なぜなら、このようなことを書かないと、簡潔だとしても深みのない答案になってしまい、高得点を期待できないからである。
④ 法的センスの培養-過去の口述試験問題の練習は大きな威力を発揮する
⑤ 論文の書き方の研究-最高得点答案のサブノート化
そして、自分で現実に答案を書く練習(毎週答練に参加し、その他、週1〜2通は過去の本番の論文問題を書いた。)をすることにより、それを増進させたのである。過去の論文問題をやることは、試験委員が何をねらって出題したのかがなんとなくわかるようになり、役に立ったと思う。
第2 現在のコメント
上記合格体験記を書いてから約40年の年月が流れた。現在、読み返してみると、文章をはじめ、未熟な点が目につき恥ずかしい限りである。
この40年の間、私は、司法修習生を経て、法律実務家として、民事、刑事、家事、少年、行政、労働、様々な事件を担当してきた。事件記録を読み、書面を書き、証人尋問等を行うことをはじめ、様々な法律実務を行ってきた。情報を収集し、これを分析、整理し、発信するというこれらの作業は、今考えると、司法試験の勉強で培った方法を、すべて発展改良して実践してきた感じがする。
法律家は一生学び続けていく必要がある。初心を忘れずに成長を続けたいものである。